アメリカンオークへのこだわり

リッジでは、シャルドネを含むすべてのワインをアメリカンオークの樽で熟成させている。「フランスワインのイミテーションを造るつもりはない」というポール・ドレーパーの言葉の中に、アメリカワインとしての誇りが凝縮されているのがわかるだろう。ただし、リッジがアメリカンオークを使うのは、偏狭なナショナリズムによるものではない。品質面で、アメリカンオークはフレンチオークを凌駕するという信念があるからこそなのだ。

一般に、アメリカンオークの樽風味はフレンチオークと比べてけばけばしく、ともすると「下品」になると腐されることがある。バーボンの熟成樽に用いられるような、キルン(熱窯)乾燥の樽材を使ったならば、この批判はあながち的外れではないだろう。ただし、フレンチオークと同じように、天日で乾燥させたアメリカンオークの樽材からは、下品な風味など少しも染み出てこない。乾燥方法こそが品質上の分かれ道なのだ。リッジでは、最低でも丸二年は天日乾燥させたアメリカンオークの樽材を使うようにしている。

なお、アメリカンオーク樽の購入価格が、一般にフレンチオーク樽よりも安価なことが、「安物=低品質」というイメージ醸成につながっている部分があるが、これは純粋な生産コストの差に由来するものである。フレンチオークはくさびを打ち込んで製材しないと液漏れが起きるが、アメリカンオークはのこぎりで製材可能。そのために原料のロスが少なく、結果として生産コストが安くなるのだ。

アメリカンオークがフレンチオーク同様優れた樽であると、ポール・ドレーパーに確信させた一つの研究がある。それは二十世紀初頭にボルドーの醸造学研究所が行ったもので、1900年産の6シャトーのワイン(オー・ブリオン、マルゴー、ラトゥール、ラフィット、ほか2シャトー)を、6種類の樽材を使って2樽ずつ熟成させ、官能評価をしたというものである。

比較実験の結果は、今日の通念にはまったくそぐわないものであった。上位3位を占めたのは、バルト沿岸地域(リガ、シュテッチン、リューベック)産のオークであり、4位がアメリカンオーク、5位がボスニア産オーク。現在最も人気の高い、中央フランス産のオークはしんがりの6位であった。

フランス人がフレンチオークよりもアメリカンオークを高く評価したことも面白いが、この結果から読み取るべきなのはむしろ、オークに対する好みが絶対的なものではなく、時代とともに変わるということだろう。いずれにせよドレーパーは、「アメリカのワインはアメリカンオークで熟成させるべきだ」という信念を一層強めることとなった。

リッジにおいてもまた、様々な種類の樽を用いての比較対象実験が毎年行われている。たとえば2003年ヴィンテージのモンテベロの熟成には、合計で27種類もの樽が用いられた。アメリカンオークだけでなく、実験目的で少量のフレンチオークも用いられている。樽材の産地(アメリカ8種、フランス2種、すべて最低2年の天日乾燥)、トースト程度(ミディアムとミディアム・プラス)、鏡面のトーストの有無、樽の容量(200、225、228リットル)、そして樽製造業者(12社/樽製造業者ごとに、蒸気、直火、熱湯など樽板を曲げる方法が違う)――これらの組み合わせで27種類ものバリエーションが生まれるのだ。

樽材は、たとえ同じアメリカンオークであっても産地が違えば風味が微妙に異なるし、トーストや板の曲げ方が異なれば、ヴァニラ香やロースト香の強弱が変わってくる。容量の違いは、相対的な酸素透過量や風味成分付与量の違いにつながる。

様々な性質を持つ樽を同時に使用することは、ブレンドによるワインの複雑性向上という効果ももたらしてくれる。複数の樽製造業者から購入をしているのは、リスクヘッジのためでもある。毎年の比較実験の結果は、定期的な試飲評価によって検証され、翌ヴィンテージ以降の樽購入に生かされている。