持続可能なアプローチ

持続可能な農法と有機栽培

リッジでは持続可能なアプローチ全般と、ブドウ畑の有機栽培認証獲得に取り組んでいる。持続可能なアプローチとは、簡単に言うなら環境に優しく、地域社会に対して責任を果たし、かつ経済的にも実行・維持可能なシステムということになるだろう。この三つの原理が、我々の意思決定の枠を形作り、方向を定めているのだ。持続可能なアプローチとは、常に動き続ける目標であり、心の有り様とも言える。地球に与える影響を減らすための改善には、果てがないのである。一方、有機栽培とは、認可を受けた特定の農薬や肥料だけを使う、持続可能な農法の一種である。モンテベロ、リットン・スプリングス、ガイザーヴィル、イースト・ベンチの畑のうち合計184エーカーが、これ迄に有機栽培の認証を獲得している。

リッジで行われている持続可能な農法は、以下のようなものである。

堆肥

毎年我々は、ブドウの茎と搾りかす(発酵後に残った果皮と種子)を使って堆肥を作る。近隣で飼われている馬から厩肥も作るし、他の土壌改良剤も作る。一年かけて作られた堆肥は「茶色い黄金」とでも言うべきもので、ブドウの収穫後に自社畑に撒かれ、土壌を豊かにする。その土壌が今度は、ブドウ樹に栄養を与えてくれるのだ。

カヴァークロップ(被覆作物)

リッジでは数種類の異なるカヴァークロップを用いており、それぞれの畑の区画ごとの性質にあったものを選んでいる。まず、土壌を豊かにする豆科植物とイネ科植物を混ぜたものがあり、これはブドウの健康を保つために必要十分な量の窒素と有機物を与えてくれている。益虫の住処となる植物は、益虫の数を増やしてくれる。イネ科植物とクローバーは、土壌流出を防止する効果を持つ。深く根が張る多年生のイネ科植物は、極めて肥沃な土壌でブドウの樹勢を抑えてくれもする。

総合防除(IPM)

あらゆる害虫と病気を抑えるために、リッジでは総合防除(IPM)を採用している。総合防除(IPM)とは、害虫や病気の被害を幅広い手段を駆使して抑える体系的手法であり、害虫や病気の状態を注意深く監視し、その天敵によって作物の被害を防ごうとするものである。総合防除(IPM)における最も大切な目標とは、有機栽培で認可されているものであれ、化学合成系のものであれ、殺虫剤の使用を減らすこと、または無くすることである。

害虫駆除

ブドウ樹に被害を及ぼすハダニに対しては、農薬を撒くのではなく、天敵となる益虫を用いることで、その生息数を許容範囲内まで下げるようにしている。ハダニの数を注意深く監視し、天敵を大量に畑に放てば、殺虫剤を撒く必要はないのである。

鳥

猛禽の止まり木や鳥小屋を畑の中に設けることで、昆虫やモグラの害を抑えている。加えて言うなら、鳥の存在自体が自然環境にとっても重要である。

ブドウ樹のバランス

リッジでは、ブドウ樹のバランスが取れた状態であるように、常に気を配っている。これは、個性豊かで長い寿命を持つ風味に富んだワインを生むために、必要不可欠だからだ。ブドウ栽培上の手法としては剪定、芽かき、除葉、摘房、灌漑管理など。すべてが合わさることによってブドウ樹の中で、品種が気候に、樹勢が土壌タイプに、収量がキャノピーにうまく適合するのである。この調和は、ブドウ畑の生態系を反映した小宇宙だと言えよう。ブドウ樹のバランスが取れれば取れるほど、より持続可能な方向へと進む。

研究活動

持続可能な農法への取り組みを通じて我々は、農業に関する新しいアイデアを育て、環境により優しい方法を考えるいくつかの団体と関わるようになった。リッジはカリフォルニア大学バークレー校による農業生態学的多様性プロジェクトに参画しており、このプロジェクトでは、ブドウ畑内のカヴァークロップと生垣が、益虫をどれだけ増やすかが調査されている。非営利団体の「ヴィンヤード・チーム」も、ワイン用ブドウ栽培における持続可能性追求に取り組んでおり、リッジとともにカヴァークロップの試験を行っている。様々なクローバーを畑に植えて、益虫を引き寄せる効果を研究しているのである。

ワイナリー建築

藁でできた生態系に優しい建物

リットン・スプリングスの醸造設備を刷新する必要があると決断したとき、醸造責任者兼CEOのポール・ドレーパーは野心的な目標を立てた。可能な限り、環境に優しい技術を活用したワイナリーを建設するというものである。計画の始めから、省エネルギーと環境に優しい建材が鍵となる要素であった。地下を掘ったカーヴはとても伝統的だし、ワインを貯蔵する上で効率的でもある。だが、リットン・スプリングスの土地では、地下に「温泉=スプリングス」が沸いているために、その選択肢は除外されていた。ドレーパーは藁で出来たブロックを建材として用いた小さなワイナリーを訪問し、それこそがリットン・スプリングスにおける最適解だと考えるようになる。鍵となる決断がなされたあと、チームが組まれ、独特の構造を持つ建物の設計と建設計画がスタートした。その途上で、多くの環境に優しいアイデアが計画に取り込まれ、基礎となる藁ブロックを用いたデザインを補完する結果となった。

藁ブロック

設計の過程において、新しいリットン・スプリングス・ワイナリーは、藁ブロックを使った米国最大の商業施設(当時)になるということがわかった。地震に見舞われるカリフォルニア州の建築基準を満たすには、藁ブロックに建物の構造を支える役割を負わせられない。そこで、建物の骨組みは柱と梁によって作り、その隙間を埋める効果的な断熱材として藁ブロックを用いることにした。ブロックは、カリフォルニア州セントラル・ヴァレー産の稲藁が原料になっている。稲藁には多量のシリカが含まれているため、動物も消化することができないし、とてもゆっくりとしか土に帰らない。仕方がないので米農家は昔から、収穫が終わったあと稲藁を焼却していた。しかしながら、大気汚染への懸念から、今ではこの焼却が禁止されている。つまり、稲藁を建材として用いることは、省エネルギーになるというだけでなく、大気汚染の防止にもつながるのだ。

土の漆喰

新生リットン・スプリングス・ワイナリーの建物では、外壁のすべてと内壁の多くが、天然の土を使った漆喰で仕上げられている。建物を取り囲む畑から取った粘土を、その場で混ぜて作った漆喰である。強度を増すために切り刻んだ稲藁がこの漆喰には加えられており、近づいてよく見るとそれがわかるだろう。藁ブロックの表面は、溶接された針金の「木摺」で覆われており、その上に土漆喰が何度も塗られて、手作業で仕上げられている。出来上がった壁は「呼吸」するもので、藁の中に溜まった湿気が蒸発するようになっている。

リサイクルの木材

新生リットン・スプリングス・ワイナリー建築の全過程を通じ、リサイクルの木材が用いられた。柱や梁に転用できる建築用の木材を、リッジの所有地内にある古い建物などから出来る限り持ってくるようにしたのだ。リットン・スプリングス・ワイナリー内の、オーク材を使ったフローリングの床すべてと、テイスティング・ルームのオークの羽目板や木製の装飾が、納屋の建材をリサイクルしたものである。テイスティングカウンターに貼られた板は、昔のリットン・スプリングス・ワイナリーで使われていた発酵タンクの廃材で出来ている。

夜の空気による冷却

設計上の多くの工夫が、藁ブロックのもつ強力な断熱性を強めるようになっている。大きく突き出た庇は、夏には建物を日陰に置いてくれるし、高い天井のおかげで、暖まった空気が人やワインよりも上にくるようになっている。夏の間は夜になると、建物の床近くの壁に設けられたよろい窓が開き、冷たい外の空気を中に取り入れる。屋根の上にあるキューポラにもよろい窓があり、そこからは暖かい空気が外へと逃げる。このよろい窓をコントロールしているのは、常に外気温と内気温を計測しているコンピューター・システムである。こうした工夫のおかげで、樽熟成庫の温度が高くなりすぎそうなときにしか、電力を用いたエアコンが使われていない。

太陽熱利用

2001年始めにカリフォルニアで起きたエネルギー危機をきっかけとして、我々は使用電力のできる限り多くの部分を、再生可能な資源を用いて自前で作ったほうがよいと考えるようになった。そこで、当時建設途中だったリットン・スプリング・ワイナリーの傾斜になった屋根の向きを、東西方向から南北方向へと切り替えたのである。この転換のおかげで、すでに建築が完了していた庇屋根とともに南を向いた屋根が広く生まれ、そこに太陽熱発電のパネルが設置された。
太陽熱発電のシステムの設計と設置は、バークリーにあるパワーライト社に委託して行った。400弱もある太陽熱発電パネルは、最大で65キロワットの電気を生む。このシステムで発電された電力が、ワイナリーでの必要量を上回ったときには、「電気メーターが逆回転」し、余剰分が電力網へと送り返される。この太陽熱発電システムは、一年にワイナリーで必要となる電力の75%を供給してくれている。

水の管理

水の管理についてのリッジの戦略は、ブドウ畑での数十年にわたる実地経験、広範な土壌についての知識、生育期間前半のブドウの成長についての集中的な監視を組み合わせたものである。

水資源節約のためのテクノロジー活用

リッジでは、ブドウ畑に植わる個々のブドウについて、樹液の流れを観察できる新しい技術を近年導入した。樹液流動観測計というこの最先端のテクノロジーは、ブドウ樹内の樹液の流れを追いかけることで、その樹が土壌から何を得ているかを教えてくれる。樹の大きさ、根の深さ、土壌の含水量、大気の動きといった複雑な変数の数々をひとつにまとめ、一目瞭然にしてくれるのだ。この観測計はまた、樹液の流れが危険なレベルを下回り、ブドウ樹が活動を止めてしまったときにもそれを知らせてくれる。観測データは電波で飛ばされ、ブドウ畑内に設置された天候観測機からのデータと組み合わされた上で、毎時更新されるグラフと表となる。それを見れば、ブドウ樹の健康度合いを推し量れるのである。土壌、根系、大気の状態を完璧に組み合わせたデータが手に入ることで、ずっと効率的な灌漑を行うための、究極に広い視野を得ることができるわけだ。

魚に優しい耕作法

リッジがソノマ郡に持つブドウ畑は、「魚に優しい環境保全型農法認証プログラム」の認証を受けている。魚や野生動物の住処を保全し、小川の侵食・堆積を防ぐことで水質改善を行うために、我々はあらゆる可能な対策を採っているのだ。

排水処理について

新生リットン・スプリングス・ワイナリーにおいては、ワイン生産時に用いられたすべての排水が処理されたあと、所有地内の池に溜められ、ブドウ畑の灌漑に再利用されている。

リッジは、合衆国衆議院ならびにカリフォルニア州議会から、水質改良の取り組みと環境保護活動で表彰を受けている。