連載コラム Vol.343

粘土によるピアス病対策

2019年5月15日号

Written by 立花 峰夫

ブドウを枯らす恐ろしい存在としては寄生虫のフィロキセラが有名だが、アメリカ大陸にはピアス病という不治の病がある。これは、Xylella fastidiosaという細菌が引き起こすもので、罹患したが最後、数年のうちに樹は枯死してしまう。樹から樹への感染を発生させる媒介生物は、シャープシューターと呼ばれるヨコバイの仲間である。以下のコラムに記したように、リッジではこの病害への対策を講じるべく、ファージを用いた研究をテキサスA&M大学の研究者と続けてきている。

https://www.ridgewine.jp/column/column_273.html

ファージの研究はいまだ実験段階にあるのだが、リッジではもっと簡単な感染予防法を発見し、すでに実践している。カオリンという粘土の一種を葉に散布するという方法である。ピアス病を媒介する昆虫には二種類あり、飛距離が長いグラッシー・ウィングド・シャープシューターと、飛距離が比較的短いブルー・グリーン・シャープシューターである。前者は気温の高いエリアにしか生息しないので、カリフォルニアの高級ワイン産地で脅威になっているのは後者のブルー・グリーン・シャープシューターである。この昆虫は、カオリンの白い色を嫌うことに加え、仮に樹から樹液を吸おうとしても(その過程で最近が感染する)、この粘土の粉末で窒息死してしまう。この手法のミソは、カオリンによる膜はとても薄いので、ブドウ樹による光合成を妨げないという点である。カオリン・スプレーの製造元は、スプレーが葉面温度を下げるために、気温が高すぎる日にも光合成が中止されないというメリットすらあると主張している。

現在、ピアス病対策の一般的な手法は、シャープシューターを駆除するネオニコチノイド系の殺虫剤を散布するというものである。ただこの農薬は、ハチの大量死との密接な関連が指摘されており、明らかに弊害がある。リッジの用いるカオリンによるコントロールは、研究中のファージを用いた防除と同じく、環境に影響を与えないグリーンな手法である。
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