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連載コラム Vol.10
ジンファンデルの起源を求めて
その2-クロアチア滞在記
  Written by デヴィッド・ゲイツ  
 
  クロアチアで最も有名になったブドウ樹の傍らに立つのは、妙に浮世離れした経験であった。私の側には、ブドウ樹のオーナーであるイヴェッサ・ラドゥニッチに、発見者であるザグレブ大学のエディ・マレッチ博士とイヴァン・ペジェッチ博士。「ツールイェナック・カシュテランスキー」と呼ばれるこの品種は、疑いなくジンファンデルそのものであり、竪琴の形に丸くカーブした葉の切れ込みと、その葉を覆う綿毛がその事実を如実に物語っている。6千本のブドウ樹が植わるこの畑から見つかったツールイェナックはわずかに8本、それはイヴェッサの祖父が混植した樹の名残である。エディとイヴァンは、クロアチアのダルマチア海岸こそがジンファンデルの生まれ故郷だと信じており、その説の証となる事実をその後も発見してきている。
 件の畑に生えるツールイェナックから40キロ南に下った場所でも、2カ所からジンファンデルと遺伝的に同一の樹が見つかった。オミッシュの上方に広がる山間の谷の端には石造りの家があり、その周辺の庭園に植わる5本の古いブドウ樹がそれだ。「プリビドゥラッグ」という名で呼ばれ、現在は生食用に仕向けられている。この場所でも、かつてはもっとたくさんのプリビドゥラッグが栽培されており、そこから造られたワインは100年前には有名だったのに、そのあと畑が打ち捨てられてしまった。高地にあるこの懸谷から、灰色の石灰岩に覆われた山々を跨ぎ越してまっすぐ南に下っていくと、アドリア海沿いにあるメメチャの町に着くのだが、その場所でも10本のプリビドゥラッグが、少なくとも栽培されている。アドリア海沿岸地域では、この品種名を持つワインが1300年頃から名声を博していたという。それは、ジンファンデルと同じようなワインだったのだろう。
 8年間に及ぶ研究の中でエディとイヴァンは、ジンファンデルと遺伝的関連を持つダルマチア海岸の品種を、ほかにも多数発見してきている。中には、数多くの重要な古代品種と、そこから派生した品種がいくつか含まれており、今日ダルマチアで広く栽培されている「プラヴァッツ・マリ」や「バビッチャ」もその一部である。これらの関連品種が相当な数に上るという事実は、ジンファンデルがたとえクロアチア原産ではなかったとしても、世界のこの場所で何百年間にもわたって存在してきたことを示している。
 600年前に、ジンファンデルがプリビドゥラッグの名で有名だったとして、何故この品種は現在ほとんど絶滅に近い状態になっていて、プラヴァッツ・マリやバビッチャなど他の品種が代わりに植わっているのだろうか。原因は、ジンファンデルの大きくて果汁の多い果粒と、薄い果皮にある。夏から秋にかけて降雨のあるヨーロッパの気候下では、この品種は病気やカビ害に極めて冒されやすいのである。今日のダルマチアで最大の栽培面積を誇る赤品種はプラヴァッツ・マリだが、こちらはジンファンデルから生き生きとした果実の個性こそは貰ったものの、ひ弱な果皮については受け継がなかった。カビへの抵抗性を持ち、適度な酸と多量のタンニンを含む品種なのだが、これらは暖かい産地のワインに必須の性質なのである。扱いやすく、かつワインの味も良いようなブドウを栽培家は常に探しているもので、プラヴァッツ・マリはうってつけだったのだ。エディとイヴァンの説によれば、プラヴァッツ・マリが「発見」されたのは200年から300年前のことで、これはボルドーでカベルネ・ソーヴィニョンが「発見」されたのとほぼ同じ時期になる。ワイン用ブドウが畑で良い結果を出し、そのワインが世間で認められるようになれば、当該地域の代表品種となるまでには1世紀もかからないのだ。
 では、何故ジンファンデルはカリフォルニアでこれだけ成功したのか。それは、カリフォルニアがほぼ完璧な気候条件、すなわち雨が降らず日照にも富む夏と秋に恵まれているからに他ならない。ジンファンデルといえども秋に雨が降らなければカビに冒されることはなく、幸運なことにここでは秋には雨がほとんど降らない。適度な酸味と色を備えた、高品質なブドウを豊富に収穫できるのである。ジンファンデルはまた、信じられないほど多才なブドウで、ロゼ、軽い赤から重厚な赤、遅摘みの甘口から酒精強化に至るまで、多種多様で質の良いワインを産している。最後に、皆様もよくご存知であろうことを付け加えるならば、この品種に適した畑に植えられ、ワイナリーでも腕の良い生産者が手がけたジンファンデルは、華麗にしてリッチ、かつ果実味に溢れるワインになるのである。同じものは、世界中探したとしても見つからない。

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 デヴィッド・ゲイツ
 リッジ・ヴィンヤーズ副社長、栽培責任者