Written by 立花 峰夫
かつて、21世紀のはじめ頃までのカリフォルニアワイン界隈では、「3R」という言葉があった。当時、頭抜けて高品質なジンファンデルを造ると評判だったワイナリーの名が、すべて「R」から始まっていたからだ。リッジ Ridge、レイヴェンスウッド Ravenswood、ローゼンブルム Rosenblumの3生産者は、スタイルこそ違えど、それぞれ卓越したジンファンデルを生産し、この品種のファンたちを喜ばせていた。
2005年、ローゼンブルムは大手多国籍企業のディアジオに売却される。蔵は今も存続しているが、創業家であるローゼンブルム一族は、同ワイナリーの経営から離れた。創業者であり醸造家でもあったケント・ローゼンブルムも、2018年に、惜しまれつつこの世を去っている。
ケントとその妻キャシーは1980年、ソノマ郡のロシアン・リヴァー・ヴァレー地区に、52エーカーの土地を買っていた。2年後、ローン・オークと名付けられたその畑に、シャルドネが植えられる。夫婦のワイナリーは売却されたが、現在樹齢44年になった、この古木の畑の所有権は、ローゼンブルム家の元に残ったままだ。
ケントには、ショーナという娘がいた。カリフォルニア大学デイヴィス校でワインを学んだあと、ロック・ウォール・ワイン・カンパニーに醸造家として入社、14年間の在籍期間のうちに、社長の地位まで上り詰めた。このショーナが、リットン・スプリングス・ワイナリーの醸造責任者として、リッジのチームに加わったのが2022年。以降、最高醸造責任者 ジョン・オルニーの片腕として、数多くのジンファンデルを仕込んでおり、父から引き継いだ「3RのDNA」を遺憾なく発揮している。このショーナ・ローゼンブルムが、自ら所有するローン・オークのシャルドネを、リッジのラベルで初めて瓶詰めしたのが2023年。畑の立地こそ違えど、「リッジらしさ」が隠しようもなく表れた、秀逸な白ワインに仕上がった。
ロシアン・リヴァー・ヴァレーは広いエリアで、その域内で非常に冷涼な場所から、そこそこに暖かい土地まで幅がある。ローン・オークの畑があるのは、域内東側のやや涼しいところ。日中の気温が上がるが、夜間から朝にかけては霧の影響もあってぐっと冷え込む。総じていえば、山岳地にあるモンテベロの畑よりは、やや温暖な立地である。土壌は、青い頁岩と赤い粘土で構成される、スプレックルズと呼ばれるもので、モンテベロの畑の石灰岩土壌とは異なっている。
気候、土壌の違いから、ローン・オークのシャルドネは、モンテベロで造られるものと比べ、すこしふくよかで、果実風味もやや熟れた方角を向く。しかし、味わいの中盤に感じられるミネラル感と凝縮感は、モンテベロの畑産シャルドネと同じで、全体が固く引き締まっている。仕込みは、おなじみの流儀である「前・工業的」な手法である。「仲間の庭」で出来た、リッジの新しいシャルドネ、ぜひ味わってみてほしい。