連載コラム Vol.355

2019年ハーヴェストレポート その3

2019年12月20日号

Written by 黒川 信治

2019年のハーヴェストは、ソノマの大規模な山火事という大きな波乱があったものの、結果としてはよい結末を迎え、ワイナリーには日常が戻ってきている。現地でワイン造りに加わった大塚食品の醸造家 黒川信治のレポート、最終版をお届けする。

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2019年の収穫はリットン・スプリングス・ワイナリーが10/19、モンテベロ・ワイナリ―が10/23に最後のブドウを破砕。一方、最後のプレスは、モンテベロでは、10/30、リットンは10/31と少し遅れた。これは、Kincade Fireによる避難勧告があったためである。

10月23日 21時27分にガイザーヴィルの北東部で発生したKincade Fireは、ガイザーヴィルの畑に向かって進行した。火の勢いが留まることなく激しくなって翌日には、樹齢137年の古木のあるガイザーヴィル畑の手前2kmくらい迄、接近。強風による延焼を心配したが、山火事と畑の間にロシアンリヴァーがあった御蔭で大事には至らず、煙の被害だけに留まった。さらに幸運な事に収穫が完全に終わっていた為、煙の影響による甚大な被害も無く、事なきを得た。

10月後半に強風警報が発令した際に、モンテベロ及びリットン・スプリングス・ワイナリーにおいて、PG&E(電気ガス供給会社)からの電気の供給がストップした。強風による電線のスパーク由来の出火を避ける為の処置であった。この計画停電が数日続けられた事も、2019年の特筆すべきことかもしれない。両ワイナリー共に、その停電を自家発電機で乗り切っている。

計画停電を行ったにもかかわらず発生してしまった77,758エーカー(315km2)を延焼させたKincade Fireは、延焼区域が森林地区主体であった事もあり、2017年の同地区の山火事に比べ被害は小さく、11月6日19時に完全に鎮火された。「1月に洪水、10月に山火事に見舞われたロシアンリヴァー周辺地域の皆様に心よりお見舞い申し上げます。」

大雨に始まり、火事で終わった感のある2019年を振り返ってみる。
2019年ヴィンテージは、「冬の雨が多く、生育期が遅れ気味に推移。全般的に涼しい年で、収穫時期は気温が上がる日が時折あったが全般に涼しかった。その御蔭で、生育期間が長く、風味豊かな高品質のブドウとなった年」といえる。

Ridgeでは、昨年から、いくつかの新しい畑にチャレンジしている。

その影響もあって2019年は、収穫量が少ない年の2倍近くになった。通常であれば、ワイナリーの許容量を超えるブドウとなり、タンクのマネージメント等の問題が発生してもおかしくない量であったが、冷涼な秋の気候の影響で収穫期間が例年に比べてかなり長くなった。その御蔭で、慌てることなく収穫のタイミングのコントロールが可能となり、比較的都合よく収穫する畑を選べた。その面では非常にラッキーな年であった。

この新しいチャレンジに関しては、またの機会に触れさせていただく事として、話を2019年ヴィンテージに戻す事とする。

冬の雨は、前述の通りロシアンリヴァーが氾濫するほどの量で、その後も寒い春は続き、生育期間は遅れてスタートした。開花時期も多少の雨があり、生育期は1〜3週間の遅れがあった。ソノマでは理想的な夏となり、この良好な気候の御蔭で少し遅れを取り戻した。一方のモンテベロでは、30℃を超える日が少ない穏やかな夏であった為、始まりは平年より遅めで、シャルドネが9月後半、ボルドー品種は、90%以上が10月になってからの収穫であった。

収穫期に入ってからは暑い日と寒い日を繰り返し、風味の成熟が糖度の蓄積より先行してブドウの成熟が進んだ。その為、慌てず収穫のタイミングを選ぶことが出来た珍しくコントロールしやすいヴィンテージであった。モンテベロでは、そのじっくりした成熟の御蔭か、色とタンニンの抽出は良好であった。

涼しい年のカリフォルニアは、エレガントに仕上がる傾向があり、エレガントでバランスの良いワインは良い熟成をする。2019年はその予感がする年となっている。

2019年12月19日
黒川信治

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