連載コラム Vol.354

2019年ハーヴェストレポート その2

2019年10月21日号

Written by 黒川 信治

2019年のハーヴェストも、佳境に入っている。現地でワイン造りに加わっている大塚食品の醸造家 黒川信治から第二弾が届いた。以下、最新状況のレポートをご覧いただきたい。

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2019年ヴィンテージの特徴は、9月、10月が涼しいところである。

モンテベロのあるクパチーノにおいて30℃を超えたのは、9月が7日、10月は1日だけ。10月のその1日も最高気温が30℃。そして、先週の最高気温が22℃と体感的にも晩秋の感じであった。

リットン・スプリングスがあるヒルツバーグでも10月は涼しかった。今週は30℃を超える日が続くようだが、これまで30℃を超えた日が2日だけであった。ソノマは元々気温が上がるエリアであるだけに珍しい。先週の最低気温は一週間を通して10度以下で2℃まで下がった日もあった。この穏やかな天候は、2019年ヴィンテージの大きな特徴となっている。

多かった冬の雨が豊富な地中水分の貯えとなり、収穫量を豊かにした為、ブドウの成熟に時間を要しているように感じる。

早い年には9月に収穫を終えるリットンでも、10月中旬まで収穫が続いた。全体的に収穫量が多めの為、モンテベロでは順番通り、ジンファンデルにボルドー品種が続いている。その影響かどうかは判断が難しいが、ジンファンデルの酸味が少なく、モンテベロの酸味は強い傾向にある。品種と土地の個性が強調されていると言えなくもない。

穏やかな9月10月の気候は、豊作の果実を適正に成熟させるには有難い。

10月二週目あたりから、ほぼ同時に成熟を迎えたボルドー品種が、3週目に佳境に入り、ノンストップで収穫が行われている。普通であれば、糖度が上がり過ぎる事を恐れて一気に収穫をしなければならないが、穏やかで涼しい気候に助けられて、慌てる必要を感じない。畑のロケーションを考え、順番に収穫を進められている。数日の違いでは、糖度は大きく変動することが無く、理想的な数値が続く。

冬の雨の影響か、果粒のサイズが若干いつもより大きい事も糖度上昇がゆるやかな理由になっているのかもしれない。一般に果皮に対して果汁が多いと、味が薄くなるが、今年は、果汁の比率は高めだが、果皮が厚く、しっかりしたとタンニンを含んでいるため、最終的に抽出されたタンニンは決して弱くは無い。エリック曰く、「96年に似ている」と。96年のモンテベロは、豊かで上質のタンニンが特徴で、私の最も好きなヴィンテージのひとつである。そうなれば最高である。

涼しかった先週と打って変わり、明日から気温が上がるという予報である。収穫を終えたリットン(ヒルツバーグ)は30℃を超えるようであるが、モンテベロのあるクパチーノは27〜29℃の予報である。30℃を超えなくてもブドウの成熟は進みそうな予報の為、この週末には、全ての収穫を終えたリットンのヴィンヤード・チームをモンテベロの応援に借り出し、今年初めてのタンクのやりくりに頭を悩ます最後の追い込みを迎えている。

2019年10月20日
黒川信治

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