連載コラム Vol.352

2019年ハーヴェストレポート その1

2019年9月30日号

Written by 黒川 信治

2019年のハーヴェストが、8月末から始まった。現地でワイン造りに加わっている大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第一弾をご覧いただきたい。

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RIDGEにおける記念すべき20回目のハーヴェストに参加できたことに感謝しつつ、今年もレポートを送らせていただきます。

ご存知の通り、ブドウの収穫は秋に行われる。正に、今が収穫真只中である。この時期の天候が、ブドウの出来に大きな影響を与えるのは間違いないが、冬から夏にかけての影響も果実の出来を左右することも事実である。冬の大量の雨がブドウの成熟を少し遅らせているように感じる。

カリフォルニアでは、2018年年末から2019年3月にかけてしっかり雨が降った。その影響によりロシアン・リヴァーで洪水の被害も出る程であった。ガイザーヴィルの畑へ様子を見に行った際、普段問題ない畑の道で車がぬかるみにはまり、立ち往生したのが1月21日のことであった。その日は快晴であったが、それまでに降った雨の影響が大きかった事を身に染みて感じた日であった。

雨は寒い春をもたらし、生育期は遅れてスタートした。まれに開花がみられることがある5月初旬にソノマのジンファンデルの畑を見に行ったが、兆しも見られなかった。

そのまま遅れ気味に推移した生育期は、8月の暑さで促進され、8月23日にエヴァンジェロのカリニャンから今年のハーヴェストはスタートしている。(日本入荷予定無し)

このエリアに続いて、9月2日にパソ・ロブレス、16日にガイザーヴィルと平年に比べ少し遅れ気味のスタートとなった。

9月に入ってからは、穏やかというか涼しい気候になっている。9月9日には、この時期にしては珍しく小雨がぱらついたが、問題にならない程度の小雨であったので休むことなく収穫は続けられた。

そして、9月12〜13日と24〜25日に二日ずつ35℃を超える真夏日が訪れた。この真夏日がブドウの糖度の上昇を促し、収穫が続く事になる。収穫された葡萄は、25℃前後の穏やかな気候の影響で、成熟した香りが育まれて、非常に良い果実となっている。また、真夏日から真夏日の間が二週間近くあり、急激にブドウの状態が変わることなく、ゆっくり成熟してくれている御蔭で、収穫は慌てることなく行われている。ゆったりしたペースで収穫が進んでいる事もあり、発酵タンクのやりくりも順調である。

そんな夏日の影響か、9月26日、テースティング・ルームのガーデンにガラガラ蛇が横たわっていた。全く気付かず、顔の前をまたいでいった後で、後ろから来た人に知らされ、戻って見てみるとかなり大きなやつであった。20年の収穫に関わってガラガラヘビをみるのは、数回あるが、このサイズにこの距離で遭遇するのは初めてであった。

暑さに誘われて這い出してきたが、急に涼しくなって動きが緩慢になっていたのか、お腹がいっぱいで昼寝中だったのか、いずれにせよ襲われずに済んだのは、運が良かった。これも今年の寒暖差が招いたエピソードと言えそうである。

雨予報であったこの週末も、最高気温が19℃まで大幅に下がるものの雨は降らない模様。雨が降らないのは有難い。また、温度が下がることで、糖度上昇にブレーキが掛かり、その間フレーバーの発展に期待が出来る。ブドウにとってはメリットが多い。一方、真夏の日差しかと思えば、冷たい海からの風に吹かれる、この大きな気温変化は人間にとっては体調管理が難しい。ブドウ優先主義で、人は耐えればよい話である。

そんな中、9月27日に新しく植えたルーステンの若木から2019年初のカベルネが収穫された。香り豊かで味わいもしっかりした果実であった。悪くない印象である。これを見る限り、この穏やかな秋の気候が続けば、素晴らしいヴィンテージになる予感である。

2019年9月28日
黒川信治

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