連載コラム Vol.350

リットン・エステート・ペティト・シラーはお値打ち品

2019年9月2日号

Written by 立花 峰夫

またまた、世界最大のワイン価格・販売先検索サイト、Wine-Searcherのランキング・ネタをひとつ。今回の指標は、そのワインがどれだけお買い得か、お値打ちかである。8月17日に発表された『The Best Value Wines in California カリフォルニアで最もお値打ちなワイン』というベストテン記事に、リッジのペティト・シラー・リットン・エステート2014が第8位に入った。

何をもってお値打ちとするか、そのロジックはいたくシンプルである。このサイトは、個別の銘柄・ヴィンテージごとに、有力評論家たちの評価点を平均した値を記しているのだが、たとえばあるワインの平均評価点が90点だったとする。そのワインの世界平均価格は90米ドルだ。お値打ち度の算定は、平均評価点を世界平均価格で割った結果の値によってなされる。このワインの場合、割り算の結果は1。評価は高いが値段も高いので、さほどお買い得ではない。一方、別のワインの平均評価点が同じ90点で、世界平均価格が70米ドルだった場合、割り算の結果は1.29となり、さきほどのワインより3割ほどお買い得だというわけである。

さて、リッジのペティト・シラーだが、数年前からは日本にも少量輸入されるようになった(現在の販売ヴィンテージは2016、標準小売価格7,800円税別)。リットン・スプリングスの自社畑に植わる、ペティト・シラー100%の赤ワインで、1901年植樹の古木の果実も含まれている。決して安価なワインではないものの、相対的な品質評価がことのほか高いということである。ランキングに入ったヴィンテージ2014のWine-Searcher平均評価点は92点。『ヴィナス』の評論家アントニオ・ガッローニは、95点を付けている。現在日本で販売されているヴィンテージ2016も負けてはおらず、Wine-Searcher平均評価点はまだ発表されていないものの、アントニオ・ガッローニは94点+をこの年には与えた。

アメリカ国内でもジンファンデルほどの人気はなく、日本ではかなり知名度の低いペティト・シラーだが、剛直なタンニンによるたくましい骨格が特徴のワインとなる。若いうちは暴れ馬を連想させる野生の力強さに満ちているが、ことのほか寿命が長く、20年、30年を経ても、まだ活き活きとした果実味を保つことができるブドウである。なお、名前にシラーの名前が入っているのは、この高貴品種と親子関係があるからで、シラーとプルールサンという黒ブドウの自然交配の結果、生まれたのがペティト・シラーである(フランスではデュリフの名で知られる)。

リッジのペティト・シラーも、確かにインパクトのある強靱なワインではあるのだが、その背後にはこのワイナリーならではのエレガンス、洗練味が隠れている。あなたがこの品種を未体験なのであれば、まずは最上の作品であるリッジのものを試していただきたい。

2013年6月以前のコラムはこちらから