連載コラム Vol.348

リッジのラベル・デザインについて

2019年8月1日号

Written by 立花 峰夫

ワイナリーのラベル・デザインは、大きく変わることがある。大手ワイナリーが造る量産ブランドであれば、マーケティング上の必要性から3〜5年ごとに、表ラベルを中心としたパッケージ全体を見直すことが推奨されているし、小規模な高級ワイナリーであっても、10年、20年という周期で見ればラベルのデザインが様変わりすることはある。しかしリッジでは、初ヴィンテージの1962年以来55年間、デザイン・コンセプトが一切変わっていない。

毎年、世界中で100万種類の異なるラベルが貼られたワインが世に出ると言われるが、リッジのラベルに似た銘柄は目にしたことがない。一種類のフォント、文字のみで構成されており、基本はモダンなデザインなのだが、ある種の古典的な威厳も感じさせるものである。特徴的な例のフォントは、オプティマ Optima という名前で、ドイツ人のフォント・デザイナー/書道家であったヘルマン・ザップがデザインし、フランクフルトのD.シュテンペル AG鋳造所によって、1958年に世に出された。リッジを創設したスタンフォード大学研究所の科学者たちが、週末にモンテベロの山でブドウ栽培、ワイン造りを始めたのがその翌年のことである。創設者たちがこのフォントを選び、あの際だったデザインを採用したのは、古典的なワイン造りとモダン・サイエンスの融合という、リッジを貫く魂を具現化しようとしたのだろう。

もちろん、55年余りの歴史の中で、記載される文字については変更があった。以前、すべての銘柄に大きく記されていたCALIFORNIAの文字がなくなったのは、世界レベルのワインを造っているという自負に基づくものだ。モンテベロ、リットン・スプリングス、ガイザーヴィルという三大旗艦銘柄からは、品種名表示もなくなっている。これは、アメリカのワイン法において、品種名表示をするには当該のブドウが75%以上含まれていないといけないという、縛りから解き放たれるためだ。品種よりも畑が決定的に重要という、テロワール至上主義を反映したものとも考えられるだろう。

そうした変更こそあったものの、ラベルに最大限の情報を記載するというポリシーは不変である。表ラベルには、RIDGEの文字、ヴィンテージ、畑名またはAVA名、銘柄によっては品種名が大きく記されており、その下には小さめの文字で再び畑名、正確な品種のブレンド比率、AVA名、瓶詰めワイナリーの所在地が書かれる。裏ラベルには、ヴィンテージ情報と飲み頃を解説した文章と瓶詰め年月、2011年ヴィンテージからは内容物表示もなされるようになった。ショップやレストランでボトルを手に取る飲み手たちに、できる限りボトルの中身について知ってほしいという想いが、リッジの表・裏ラベルには詰め込まれている。

ボルドー五大シャトーのラベルが100年を超えて不変であるように、リッジのラベルはこれからも同じデザインであり続けるだろう。
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