連載コラム Vol.346

リッジ・エステート・カベルネ ― 選ばれた区画から生まれるモンテベロのエレガント版 その1

2019年7月1日号

Written by 立花 峰夫

このほど、モンテベロ・ワイナリーの醸造責任者であるエリック・ボーハーが、モンテベロと同じ畑から生まれるエステート・カベルネについての優れた解説文を、アメリカ本国で顧客向けに発行されているニュースレターに掲載した。今回と次回は、その文章を訳出する(全2回中の第1回)。

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単一畑から2種のワインを造るという手法は、ボルドーにあるほとんどの格付けトップ・シャトーで1世紀近くにわたって実践されてきている。当初はシャトーにとって、常に経済的に報われるとは限らなかったし、消費者に受け入れられるとも限らなかった。このやり方が真の意味で実を結んだのは、1980年代のことである。目的は、ファースト・ワインの品質を高めるためであった。リッジが「セカンド・ワイン」を造り始めたのは1978年のことで、ラベルには「リッジ・サンタ・クルーズ・マウンテンズ・カベルネ・ソーヴィニョン」と記されていた。この新たなワインは、1970年代末の干魃や、1980年代のやたら雨の多かった歳月の間、厳しい天候条件をくぐり抜けるのに役だってくれている。サンタ・クルーズ・マウンテンズに格下げされたロットのおかげで、モンテベロはより強靱で、優れた熟成能力に必要な逞しい骨格を、持ち続けることができたのである。

その後、新しく植えられた畑でブドウが実るようになったが、まだ根が浅かったため、美しく果実味が前に出たワインが生まれはしたものの、際だったモンテベロの個性がそこにはなかった。根が深く張るまでは、新しい畑からのワインは格下げされている。だが1990年代の後半になると、すべての畑の区画について、モンテベロのブレンドに含められるべきものとして耕作し、ワインを仕込むようになった。ブラインド・テイスティングの中で、いくつかのロットはまだ格下げされていたものの、それはモンテベロの長期熟成可能性を保つためである。約3年のあいだ、サンタ・クルーズ・マウンテンズはより骨格の強いワインであった。

2002年、すべての畑の区画を入念に精査し、モンテベロ用に選ばれた頻度を確認したのち、醸造を変え始めた。サンタ・クルーズ・マウンテンズに仕向けられるブドウについては、最初からワイナリーでの仕込みをより優しいものに、すなわちタンニンの抽出を抑え、圧搾を早めにして、エレガントなワインを造るようにしたのだ。その後、モンテベロと同じ手順でワインを注意深くブレンドする。こうしたことで、我々は複雑性と熟成能力、開きやすさにおいて違いを持つ、2種類の「ファースト」ワインを生み出せるようになった。サンタ・クルーズ・マウンテンズにはまた、より多くメルロがブレンドされていたから、ワインはよりまろやかになり、優雅さが現れたものの、カベルネ・ソーヴィニョンという品種名をワイン名から取り除かなければならなくなった。
(次回に続く)

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