連載コラム Vol.335

醸造責任者 エリック・ボーハーがアメリカンオーク、石灰岩土壌、カベルネ・フランなどについて語る その1

2019年1月15日号

Written by 立花 峰夫

以下は、2018年12月にリッジの米国公式サイトに投稿された、モンテベロの醸造責任者 エリック・ボーハーによる表題のテーマについてのコメントである(全2回の第1回)。

*******************

1.モンテベロ赤とエステート・カベルネの樽熟成プログラムについて教えてください。

――モンテベロもエステートもともに、最初は100%新樽で樽熟成を始める。97%はアメリカンオークで3%がフレンチだ。樽は事前に蒸気で消毒し、最初にオークからしみ出てくる抽出物を徹底的に洗い流すようにする(ヒッコリー風味の抽出液で、ワインにしみ出ることがないように取り除かないといけない)。洗浄が終わると、樽は水溶性のラテックス塗料で塗装され、樽に染みがついたり微生物が繁殖したりすることがないよう、外面を保護される。その後、樽はセラーで伝統的な方法で積み上げられるのだが、それは木製のくさびを使ってピラミッド型になるようにする。モンテベロ、エステート用の果実が収穫、発酵、圧搾されると、フリーラン・ワインは温度管理されたタンクに移され、マロラクティック発酵(ML)が始まる。マロラクティック発酵が25〜33%完了した時点で、タンクに酵母の澱が再度混ぜられ、ワインは樽に移されて残りのマロラクティック発酵を済ませる。樽内でのマロラクティック発酵は、オーク風味の統合とともに、素晴らしい風味の発展、舌触りの向上をワインにもたらしてくれる。1997年以来、この手法でのマロラクティック発酵と澱上での熟成を行ってきた。この年に、同じロットのマロラクティック発酵をタンク内でしたものと樽内でしたものを、入念な手順のブラインド・テイスティングで比較したのだ。何度比較しても、樽内でマロラクティック発酵したもののほうが、より優れたワインの口当たり、樽風味の統合、複雑味の上昇が見られたのである。


2.アメリカンオークの樽には、フレンチオークと比較した際にどんな風味個性があるのでしょう。

――アメリカンオークは甘い風味のオークで、適切な加工と天日乾燥をすれば、異国風なスパイスとキャラメルの風味をワインに与えてくれる。アメリカンオークはモンテベロのタンニンを柔らかくし、甘い果実味で包んでくれるのだ。香りが華やかになり、果実味はより輪郭がはっきりし、甘くなる。フレンチオークはよりタンニンが強く、炭水化物を含まないため、キャラメル風味が抽出されることがない。フレンチオークにはとげとげしいところがあり、ヴァニラ、石墨、杉の香りが、キメの粗いタンニンとともにその特徴だ。フレンチオーク樽で熟成させたモンテベロは辛く、キメが粗く感じられ、フレンチオーク特有の強いヴァニラの風味によってマスクされている。フレンチオーク樽から試飲して、モンテベロ特有の個性を見つけるのは難しい。フレンチオーク樽の強烈な樽風味の下に、隠れてしまうからだ。


3. 石灰岩土壌は味わいのプロフィールにどう影響するのでしょうか。

――石灰岩とは炭酸カルシウムを主成分とするもので、土壌をアルカリ性に変え、カリウムを不足気味にする。ブドウ樹の根は、石灰岩が蓄える豊富な水分を吸収することができる。この水分は、炭酸カルシウムの中で飽和しているもので、これをブドウ樹が取り入れるのである。ブドウ樹の内部においては、カルシウムは果皮の中で強力な生化学的機能を帯びており、アントシアニンの合成に役立つのだ。モンテベロのブドウが、インクのように濃い色をしているのはこのためなのである。また、カリウムが不足していることにより、素晴らしい酸味を得ることもできている。ブドウ樹はカリウムの陽イオンによって、酸を代謝するのである。カリウムが豊富な土壌では、ブドウは天然の酸の多くを失ってしまう。モンテベロにおいては、ブドウが成熟しても酸が失われない。モンテベロのエステート・シャルドネの瓶詰め時のpHは3.20〜3.40で、ボルドー品種については3.30〜3.50である。石灰岩由来の味わいは、舌で感じることもでき、それは余韻が終わるときに現れる。私にとってその味わいは、砕いた火打ち石や濡れたコンクリートを思わせる。それは際だったミネラル風味であり、描写するのは困難なのだが、モンテベロの畑から造られたすべてのワインに見つけられるものである。

2013年6月以前のコラムはこちらから