連載コラム Vol.330

ジョン・オルニーへのインタヴュー(2003年秋) その1

2018年7月2日号

Written by 立花 峰夫

筆者は2003年のハーヴェスト・シーズンに、モンテベロ・ワイナリーで醸造研修生として働いた。モンテベロでの研修が終わったあとは、しばらくソノマのリットン・スプリングス・ワイナリーのゲストハウスを使わせてもらい、周辺のワイナリーを回っていた。その頃、リットンのワインメーカーであるジョン・オルニーといろいろ話したのだが、雑誌記事のためにインタヴュー形式で行った対話のメモがこのたび出てきた。雑誌記事では紹介しきれなかった、ジョン・オルニーの人となりがよく出ているインタヴューだと思うので、少々古いものではあるが、2度にわけてご紹介しようと思う。

ジョン・オルニーは、有名なワイン・ライターのリチャード・オルニー(故人)の甥っ子である(リチャード・オルニーの本では、『ロマネ・コンティ』というでっかい本が日本には翻訳されている)。ジョンは、カリフォルニアはバークリーに拠を構える、伝説的ワイン輸入商のカーミット・リンチの元で6年間働いたのち、ブルゴーニュに渡った。ブルゴーニュではボーヌの醸造学校に通いながら、ロマネ・コンティの共同所有者であるオーヴェール・ド・ヴィレーヌの元で2年間研鑽。その後カリフォルニアに戻り、カーミットと、シェ・パニースのアリス・ウォーターズの紹介でポール・ドレーパーと会い、1996年にリッジに醸造家として参画した。派手な経歴を持つ男である。

●筆者:
月並みな質問で申し訳ないですが、あなたのワイン造りの哲学について教えてください。

●ジョン:
うん。そうだな。俺はね、この10年間、世界の高級ワインがどんなふうに造られているかを見てきたんだ。それで、俺のポリシーというのは形作られたんだけど、まぁ一言でいって、テロワールを大事にするということだな。このアプローチは、今のカリフォルニアではそんなに珍しいものではなくなってきたけど、10年前はまったく違ってたんだよ。ここでは誰もテロワールだなんて言っていなかった。今でこそ、みんな「テロワール」という言葉をマーケティングの道具にしているけどね。

●筆者:
そうですね。昔は「土壌なんて関係ない」って、カリフォルニアではみんな言ってましたからね。しかし、あなたもカリフォルニアの人でしょう。テロワール主義とアンチ・テロワール主義の間で、迷ったりはしなかったんですか?

●ジョン:
それはないな。自分にとって、テロワールが重要だということは自明だった。ブルゴーニュでオーヴェールとした経験が大きい。同じブドウ品種で同じように育てていても、畑が違えば味が歴然と違うんだ。これが、俺のワイン造りの出発点だからね。

●筆者:
わかりました。しかし、テロワールを大事にするって、ワイン造りの局面ではどういうことなんですか?

●ジョン:
うーん、なんというかな、分かるんだよ。どういうワインを造ったらいいかが、ブドウを見たら。正しい場所に、正しい品種を正しく育てていたらだけどね。ブドウが進みたいと思っている方向に、導いてやるというかな。野球をしたがっている子供に、無理矢理音楽をやれって言っても仕方ないだろう。ブドウもそれと同じなんだ。無理矢理音楽やらせようとする造り手も沢山いるけどね。

●筆者:
ブドウのしたいようにさせる・・・それは子供に好き放題やらせる、放任主義ということですか?

●ジョン:
ちょっと違う。今お前が言ったのは、カリフォルニアの造り手達に広まっている典型的な考え方だ。フランス式のワイン造りというのが、ここでは「何もしない」こととイコールだと思われている。ほったらかしで成り行きにまかせることがフランス式だ、伝統方式だと皆が言っているけれど、それはフィクションなんだよ。

●筆者:
どういうことでしょう?

●ジョン:
フランスの連中だって、いろいろやるんだよ、補糖とか。知ってるだろう(笑)。どんなに素晴らしいテロワールだって、どこかに必ず弱点があるんだ。ロマネ・コンティだろうと、ラフィットだろうとそれは同じだ。ずば抜けていいヴィンテージには、殆ど何もしなくていいということだってあるだろうけれど、それはあくまで例外中の例外。毎年必ずどこかに問題があるし、問題があれば当然対処をする。何もしないなんてことはありえない。

●筆者:
そう思います。私もリッジに来る前は、「カリフォルニアは雨降らないし、リッジは天然酵母だし、きっと何もしていないに違いない」と想像してたんですが、そんなことはない。毎日夜中まで働かないといけない(笑)。

●ジョン:
そりゃそうだよ。テロワールだけですべてが決まるんなら、ポール・ドレーパーも俺も必要ないんだから。誰でもモンテベロやリットン・スプリングスを造れるということになる。お前でも造れる。どうだ、今自分でモンテベロを造れると思うか?

●筆者:
思いません・・・・・・。

●ジョン:
そうだろう。テロワールってのはあくまでポテンシャルなんだ。そのままでは理想的な形では出てこない。醸造家が、そのポテンシャルを引き出してやらないといけないんだ。 ね・・・・・・。

(次回に続く)
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