連載コラム Vol.329

コラヴァンをワイナリーで

2018年6月1日号

Written by 立花 峰夫

2017年春から日本でも販売されるようになったが、CORAVIN コラヴァンというワインのサーヴ器具がある(アメリカでの発売は2014年)。最近は、日本の高級レストランでもよく見かけるようになった。個人のワイン愛好家にもよく売れているという。この器具、「ワインボトルの中身を酸化させることなく、グラス一杯、二杯分だけ取り出す」という長年の業界の夢を、コンパクトな器具の形で叶えたものである。

ワインをグラスでサービスしているレストランやワインバーの最大の課題とは、「その日に売り切れなかったボトルの中身がいつまで使えるか?」である。ボトルに残った量にもよるのだが、「二日目…まあいいだろう/三日目…うーん、ちょっと厳しめなので、人(客)を見て出そう/四日目…赤ワイン煮込みに使うか」、みたいな判断は、どこのお店でもやっていることだろう。

一般の愛好家の方にも、似たような悩みはある。「お酒にあまり強くないから、ひと瓶を一夜で飲みきるのはちと苦しい。でも、翌日になると味が変わっている。若い酒なら二日目のほうがおいしかったりもするが、古酒だと無残な状態になっている。悲しい」という感慨をお持ちの方は多くいるはずだ。

業務店用には、この悩みを解消するデバイスがこれまでもあった。いわゆる「窒素ガスサーバー」というやつで、グラス売りに力を入れているレストランやワインバーで、ときどき見かけるものだ。悪くないのだが、「デカイ、高い」というのがデメリットで、そこそこの規模の飲食店なら使えるものの、小規模店や個人ではとても仕入れられるものではない。また、窒素ガスサーバーには国産、外国産あわせて何種類かあるのだが、「コルクを抜いたときに、幾分か空気(酸素)が瓶内に入ってしまい、ワインと反応してしまう」という構造的な問題が、ほとんどの機種にはあった。

長年続いたこの状況への美しいソリューションを、約4年前に提供したのがコラヴァンである。アメリカのベンチャー企業が開発したデバイスなのだが、あれよあれよいうまに大ヒットし、今では世界50カ国以上で販売されている。コラヴァンがどんな機械かは、以下の動画をご覧いただきたいのだが、コルクを瓶口から抜かない状態のまま、注射針をブスっとコルクに刺し、そこから不活性ガス(アルゴンまたは窒素ガス)を注入して中身のワインを必要量だけ押し出すという仕組みである。このデバイスの優れたところは、小さいこと、相対的に安いこと(本体が1個あれば何種類のワインにでも使える)、コルク栓を抜かずに中身のワインを取り出せることである。昨年には、スクリューキャップの瓶にも対応するための専用栓も発売され、あとはスパークリングへの対応を残すのみだ。

http://coravin.jp/revolution/

このコラヴァン、本国アメリカでは売れに売れていて、ワインショップ、アマゾンなどの通販サイトなどでも広く販売されているのだが、一番売上高が大きいのがワイナリーのテイスティング・ルームでの顧客への販売らしい。リッジもそうだが、カリフォルニアのワイナリーは、セラードアでの販売、すなわちワイナリーを訪問してくれた観光客に、ワインをテイスティング・ルームで直接販売する売上比率が意外に大きい。コラヴァンの登場により、ワイナリーはライブラリー・ストックから古酒を出してきて、試飲させながら売ることが可能になった(ロスが出ないからである)。そのようにして、実際に使われているコラヴァンを目にした顧客が、「自分も欲しい」と思って買って帰るパターンが非常に多いようだ。

リッジのテイスティング・ルームでも、コラヴァンはおおいに活用されている。長い寿命をもつリッジの貴重な古酒を、毎週訪問客に試飲してもらうことができれば、古酒そのものだけでなく、若いワインの販売量も増えているはずだ。
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