連載コラム Vol.325

ブドウ価格の上昇

2018年3月15日号

Written by 立花 峰夫

ボルドー品種をモンテベロの自社畑で栽培するリッジには直接関係のない話ではあるものの、ナパ産のカベルネ・ソーヴィニョンの価格が上昇を続けている。このほど、カリフォルニア州食品農業局が発表した年次の『クラッシュ・レポート』によれば、2017年におけるナパ・ヴァレー産カベルネ・ソーヴィニョンの平均販売価格(栽培家→ワイナリー)は、トンあたり7,421ドル。前年から9%の上昇である。キロあたりにすると、800円以上のブドウということで、これはワイン用ブドウの世界的な価格水準からすると、「異常に高価」な部類に入る(なおこの価格は、フランス・シャンパーニュ地方のブドウ取引価格とほぼ同水準である)。

1976年の「パリスの審判」以来、ナパはカベルネ・ソーヴィニョンの銘醸地としてその名声を確立してきたから、価格が高くても別段不思議ではない。ただ、その値上がりの速度は甚だしい。ナパのカベルネは、1990年代後半からカルト・ワインの隆盛によって第2の黄金期を迎えたが、その直前である1995年と今の値段を比べると、5倍近くまで跳ね上がっている。安価なブドウが栽培されている内陸部セントラル・ヴァレーにおいては、同じ期間に1.5倍にしかなっていないから、いかにナパ産カベルネの価値が増しているかがわかる。

価格上昇の背景には、移民労働者の減少による労働コストのアップなどもあるが、主原因はやはり需要と供給のバランスである。ナパのカベルネは、そのワインが高く売れるから、栽培家がワイナリーに売るブドウの価格も上がるのだ。一部の人気品種ばかりが高値をつけるのは、ナパのカベルネに限った話ではない。お隣のソノマ群では、ナパのカベルネほどではないがピノ・ノワールの価格がやはり急上昇している。このような状況になると、栽培家の誰もが勝ち馬に乗りたがるから、安値でしか売れないブドウ品種は引き抜かれ、一部の人気品種に栽培がますます集中することになりそうだ。割を食うのは、ジンファンデルのような「庶民のブドウ」である。

リッジが1990年代以降、リットン・スプリングス、ガイザーヴィルの畑を買収して自社畑にしたのは、こうした流れも背景にある。市場原理に任せていたのでは、貴重なジンファンデルの古木とて、容赦なく引き抜かれてしまうかもしれないのだ。実際に、昨今のカリフォルニアではそうした悲劇が日々起きている。
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