連載コラム Vol.312

1997年カリフォルニア産カベルネの水平試飲

2017年9月1日号

Written by 立花 峰夫

先だって、1997年ヴィンテージのカリフォルニアのカベルネを4銘柄、比較試飲する機会に恵まれた。リッジ・モンテベロ(サンタ・クルーズ・マウンテンズ)、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ・カスク23(ナパ)、シルヴァー・オーク・アレクサンダー・ヴァレー(ソノマ)、ピーター・マイケル・ナイツ・ヴァレー・レ・パヴォ(ソノマ)という、実に豪華なラインナップである。

1997年は、カリフォルニアにとって分水嶺になったヴィンテージである。天候要因でブドウが極めて高い糖度に達したこの年、アルコールが高く濃密な果実味を有するワインが多数生まれた。そんなスタイルのワインを、当時権力の絶頂にあったロバート・パーカーが絶賛したことから、カリフォルニアは一気に過熟なスタイルへと舵を切り、それから約15年、「熟度こそがすべて」の時代が続く。過熟の状態を、「生理学的成熟」と言い換えるのが流行りとなった。

だが、それから20年、歳月による審判が1997年ヴィンテージには下りつつある。リリース当時絶賛を受け、景気のよい点数を与えられた銘柄の多くが、すでに下り坂にさしかかっているのだ。好対照となっているのが、「貧弱な年」と酷評された翌1998年ヴィンテージである。カリフォルニアとしては異例なほど冷涼で、雨ばかりが降ったこの年には、酸の強い引き締まったスタイルのワインが生まれた。この年のほうが、熟成による美しさを開花させている銘柄が多いようなのは、実に皮肉な結果であろう。

さて、上述の比較試飲の結果はどうだったか。結論から言えば、どのワインも素晴らしい熟成をしていたが、熟成の有り様がまっぷたつに分かれたのが興味深かった。ヨーロッパ的な(あるいはボルドー的な)古典的熟成をしていたのが、リッジとスタッグス・リープ。比較的低い糖度で摘み、酸をしっかり残したスタイルである。スタッグス・リープは、2007年にアンティノリとシャトー・サン・ミシェルに売却されてからは、やや濃厚なスタイルへと向かうようになったが、1990年代はエレガントなワイン造りを行っていた。一方、豊富な果実味を残したまま、風味の組み立てを変えず柔らかくなっていった印象だったのが、濃厚スタイルのシルヴァー・オークとピーター・マイケル。どちらの熟成がよいかは、飲み手の好みに大きく左右されるので一概には言えない。ただし、風味の発展性という点において、この先まだ坂を上っていくのはエレガント・スタイルのほうではないかと感じられた。
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