連載コラム Vol.302

水を節約する新たな手法 その2

2017年3月31日号

Written by ワイン・インスティテュート

以下は、リッジ・ヴィンヤーズの栽培責任者であるデイヴィッド・ゲイツが、畑での灌漑用水の節約について語ったインタビュー記事の翻訳である。記事は、カリフォルニア・ワインの振興団体であるワイン・インスティテュートと、同州で持続可能型ブドウ栽培を推進する組織カリフォルニア・サステイナブル・ワイングロウイング・アライアンスが毎月発行するニューズレター『ダウン・トゥ・アース』の、2017年1月号に掲載されたもの。前回からの続きである。

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――ハイテクによって得られる情報で、水の利用状況がどう変わりましたか?

以前は、収穫直前に古木に水をやっていたのですが、実のところ本当に必要なのか確信があったわけではなかったのです。6年前にセンサーを取り付け、それまで同じように畑の管理をしました。摘みとりの10日前に、その区画にしっかりと灌漑をしたのですが、センサーは少しも反応しなかったのです。通常なら、ブドウ樹が水を欲しているときに与えてやると、蒸散が盛んに起こり、結果として大きな反応が得られます。しかし、そうはならなかった。つまり、灌漑は必要なかったのです。

私の灌漑についての方針は常に、「必要なときに長く、深くまでやる」というものでした。雨を模倣しようとしているのです。今では、一年に行う灌漑の回数が減りました。最良の土壌に植わる成木には、水をやらなくてもいいのです。かつては、普通の年で一年に一度、干魃の年には二度の灌漑をすることもありました。若木については、かつて五、六回やっていたのが、今では三、四回になっています。

――どれぐらい水が節約できているか、数値を挙げて説明してもらえますか?

モンテベロの畑ではまったく水を使っていません。他の場所では、ブドウ樹一本につき最大で年間50ガロン(約190リットル)の使用量です。センサーを設置する前と比べて、おおよそ半分の量になっています。

――ワインの品質に何か影響は出ましたか?

品質面では変化はありませんし・・・・・・収穫量についても変化なしです。品質が上がったとは思いませんが、品質を保てていることには満足しています。テクノロジーのおかげで、貴重な資源を節約できるようになったのですから。

――そうしたテクノロジーを使って、キャノピー(樹冠)の成長も管理できるのですか?

ええ、できますよ。セントラル・コースト地区やサン・ホアキン・ヴァレー地区では、土壌が砂質だったり雨量が少なかったりで、春の段階で土壌の含水量が少ないのです。ですから、このテクノロジーを使って、望むようなキャノピーをデザインすることができます。たとえば、大きくなりすぎないキャノピーにするとかですね。ノース・コースト地区では事情が違っていて、通常の年なら生育期間の開始時にはたっぷりと水があります。ですから、ブドウの樹勢を抑えるのは難しいですね。

――現在では、ブドウ樹がどれだけの水を使っているかがわかるようになったわけですが、高品質なワイン用ブドウにとって、どの程度のストレスが適切なのでしょうか?

それは大変に難しい問題です。樹に水をやれば、育ちます。最良の場所とは、樹の成長を抑えてくれる土壌と気候のどちらかか、両方を備えている場所です。果実を適切に完熟させるには、新梢の長さは90〜120センチあればよいので、ストレスは必要なのですが、過度になると望ましくない風味が生まれてしまいます。畑が川底平地にあって土壌が深く、利用できる水が多いならば、このテクノロジーを使ってブドウ樹にかかるストレスを微調整し、どれぐらいで果実の品質が最も高まるかを調べることができるでしょう。

――もっと水の利用量を減らせると思いますか?

若木の区画に取り付けたふたつのシステムによって得られる情報を、成木になりつつある他の若木の区画にも利用することができます。若いブドウ樹は間抜けなんです。ある年にはよく育ってくれたのが、翌年はダメだったり、とんでもなく優れた品質の年の次が、そここそぐらいだったりもします。新しく植えた畑が落ち着くまでには、10から12年はかかるでしょう。もし、灌漑を洗練することによってこの期間を短縮できたなら、とても役に立ちます。

――こうしたブドウ畑のテクノロジーは、リッジにおける醸造哲学とどのように一致するのでしょうか?

テクノロジーを使うのは、人為的介入を最小限にするためなのです。ワイナリーでは、盛んに成分分析をすることによって、必要なときだけしか手を加えないようにしています。テクノロジーを使うのは、ブドウをいじくりまわすためではなく、逆にいじくりまわさないためなのです。いじくればいじくるほど、その土地らしさがブドウやワインから消えていきます。しかし、私たちが造るワインは、いずれも類がなく興味深い土地から生まれているのですから。

©2017 Wine Institute

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