連載コラム Vol.301

水を節約する新たな手法 その1

2017年3月15日号

Written by ワイン・インスティテュート

以下は、リッジ・ヴィンヤーズの栽培責任者であるデイヴィッド・ゲイツが、畑での灌漑用水の節約について語ったインタビュー記事の翻訳である。記事は、カリフォルニア・ワインの振興団体であるワイン・インスティテュートと、同州で持続可能型ブドウ栽培を推進する組織カリフォルニア・サステイナブル・ワイングロウイング・アライアンスが毎月発行するニューズレター『ダウン・トゥ・アース』の、2017年1月号に掲載されたもの。リッジの畑で用いられている最新技術について、詳しく紹介されている。

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雨の多い年がいくらかあれば、カリフォルニアの水不足も和らぎはするのだが、水の有効利用は引き続きブドウ栽培家にとって重要課題であり続けている。水を節約する耕作法は今日、新たな標準となった。進歩的な考えをもつ栽培責任者たちは、灌漑の水利用を最適化するためのテクノロジー導入に熱心である。サンタ・クルーズ・マウンテンズにあるリッジ・ヴィンヤーズでは、栽培責任者の地位にある上席副社長のデイヴィッド・ゲイツ・ジュニアが、水資源管理のために有望な新手法をふたつ採用している。

――水の利用を最適化するために、新しいテクノロジーをいくつか畑に取り入れられていますね。その仕組みを一般人にも分かる言葉で説明してもらえますか?

樹液流動センサーは、ブドウ樹の幹の径が細いところ、たとえば結果母枝に巻き付ける袖のような装置です。その袖にはふたつ温度計が内蔵されていて、温度計のあいだにはヒーターがあります。樹の中を流れる樹液を温めるのですが、温める前後の樹液の温度差が測定されます。測定する箇所の幹の直径がわかっていれば、方程式によって樹液の流れる速度が求められるので、その値を飽差と比較するのです。飽差とは、光合成を推し進める大気の条件のことで、温度、湿度、風などによって定まります。飽差の値は重要で、というのもブドウ樹がどれだけ水を求めているかの指標だからです。フルイション・サイエンス社が開発したこの技術は、灌漑を実施するタイミングを改善してくれたうえに、水の総利用量を減らしてくれもしました。

リッジのブドウ畑では、飽差を計るテクノロジーをもうひとつ採用しています。トゥーレ・テクノロジーズ社のセンサーで、これは樹液流動センサーとは違い、ブドウ樹の樹冠(キャノピー)の上のほうに、複数の高さで設置します。この会社の所有者が開発した技術により、区画全体からどれだけの量の水が蒸発しているかを計ることができるのです。両方のシステムを使えば、特定の大気状態においてブドウ樹からどれだけの水が失われているかを比べることができます。大気が求める水分を、ブドウ樹が蒸散させられているのであれば、灌漑で水を与えることは必要ないのです。

――以前はどのようにして、灌漑についての意志決定をしていたのですか?  経験則と天候によって決めていました。私はこのワイナリーで、1989年からブドウを育てているのですが、以前は水をやりすぎていました。成木については特にです。農夫とはそういうもので、枕を高くして寝たいのですね。少しでも心配ならば、水をやったって問題ではないからです。とはいえ、それで何かが良くなるわけでもありませんから、そもそも行う必要のない灌漑だったわけです。

(その2に続く)
©2017 Wine Institute

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