連載コラム Vol.300

干魃と水の保全

2017年3月1日号

Written by 立花 峰夫

カリフォルニアは、日本と比べて雨が少ない。東京、大阪の年間平均降雨量が1500mm程度なのに対し、モンテベロで800mm程度。地域差は当然あり、カリフォルニア州内でも2000mmを超えるようなエリアがあるものの、全体としては降雨の少ない土地である。なので、ブドウ畑やワイン造りの現場に限らず、人々の日々の生活においても、水は貴重品という意識が浸透している。

カリフォルニアでは、晩秋から初春にかけてしか雨が降らない。ブドウ生育期間、つまり春から秋までの間にはほとんど雨がないため、ブドウは地中に蓄えられた水分や、溜め池などから引いてきた灌漑用水によって、その活動に必要な量をまかなっている。したがって、冬場に雨が降らないと、ブドウが必要とする水が足りなくなり、果実の収量や品質に影響が及ぶようになる。

カリフォルニアでは、2012年を迎える冬から2016年を迎える冬までの4年間、降るべき時期に十分な雨が降らない深刻な干魃が続いた。2015年までの3年間はまさにカラカラ。そのせいで、2015年のブドウの収量はずいぶん落ち込んでいる。2016年を迎える冬にはある程度は雨が降ったものの、それでも平年の75%程度で、それまでの水不足を埋め合われるのにはまったく足りない量だった。このまま干魃が続くのかと心配されたのだが、幸いなことに、2017年を迎えるこの冬は大量の雨が降っている。各地で川が氾濫し、洪水が起きているほどである。多少の被害が出れども、待ちに待った恵みの雨が、有り難いことは間違いない。

ただし、これで心配が晴れたかというと、そうでもないと見る向きが多い。過去4年の干魃は、地球規模での気候変動が原因である可能性があり、そうならば今後干魃が常態になる恐れがあるからだ。カリフォルニアのブドウ栽培家たちは今、水がない環境でいかにブドウ栽培をするかについて、これまで以上に真剣に考えている。

カリフォルニアでは、多くのブドウ畑で灌漑がなされていて、灌漑用水にワイナリーの排水をリサイクルして使用しているところが多い(リッジでも、リットン・スプリングス・ワイナリーにはその設備がある)。ワイナリーでは、とにかく多量の水を使う。衛生管理のために、タンクを洗い、ホースを洗い、樽を洗う。グラス一杯のカリフォルニア・ワインを生産するのに、50リットルもの水が必要だと言われる。それほどの排水を再利用しないのはあまりに勿体ないので、溜め池に貯めて浄化処理をした上で、畑に回すのが一般的な取り組みになっているのだ。

ただ、畑でブドウにやる水の量を減らせるのであれば、減らすに越したことはない。ここ数年の干魃が原因で、カリフォルニアでは昔ながらのドライ・ファーム(灌漑なしのブドウ栽培)に戻ろうとする動きが活発化しており、極力灌漑用水の使用を抑えるためのテクノロジーの開発も盛んである。必要最低限の水を、ピンポイントのタイミングでブドウに与えるにはどうすればよいか。次回から2回にわたり、リッジでの取り組みについて、栽培責任者デイヴィッド・ゲイツのインタヴューを通じてお知らせする。
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