連載コラム Vol.296

エリック・ボーハーへのQ&A その2

2016年12月28日号

Written by 立花 峰夫

アメリカの人気ワイン・ブロガーであるアイトール・トラバードが行った、エリック・ボーハー(モンテベロ・ワイナリー醸造責任者)へのインタヴュー、第2回をお届けする(全3回)。

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――ジンファンデルを仕込むことの意義ってどんなことだろう?

多彩なスタイルのワインに、姿を変えられるブドウなんだ。我々が造るジンファンデルは、概して熟度が中庸で、しっかりとタンニンが抽出されていて、強めの酸がある。リッジで一番面白いジンファンデルは、19世紀に植えられた古木のものだ。ジンファンデルが主体だが、補助品種(ペティト・シラー、カリニャン、ムールヴェドル、アリカンテ・ブーシェ、修道士が運んできた品種がいくつか)と混植されている。同じ品種構成、土壌の畑はふたつとしてなくて、その結果として我々が造るワインにはすべて独自の異なる味わいがあり、ブドウ畑の個性を際立って示しているのさ。

――ジンファンデルはAVAごとに大きく違うのかな?

ジンファンデルは地域ごとの局地気候や、土壌組成に大きく影響を受ける。気温の高い地域では、中庸の色の濃さでタンニンの柔らかい、熟したスタイルが生まれる。こうしたスタイルのジンファンデルは、早飲みに適しているんだ。地域の気温が下がるにつれて、つまりは太平洋に近づくにつれて、ジンファンデルはより本格的になる。ジンファンデルにとって最良の地域はソノマ郡北部で、日中暖かくなるほどには海岸から離れているけど、夜には気温が下がってくれる。我々が耕作するジンファンデルの大半は、ドライ・クリーク・ヴァレーと、そこから東に丘を越えたところのガイザーヴィルにある。

――ジンファンデルの魂が最も輝くのはどこだと思う?

私の考えだと、最高のジンファンデルが出来るのは、ドライ・クリーク・ヴァレーと、アレキサンダー・ヴァレーの西側だね。リッジのものであれ、他の生産者のワインであれ、このふたつの地域の気候は丁度よくて、とても複雑で長期熟成できるワインが生まれるんだ。

――ふたつのワイナリー、リットン・スプリングスとモンテベロを、どうやって管理しているの?

1991年からワイン醸造施設がふたつになったんだけれど、というのもその年にリッジがリットン・スプリングス・ワイナリーを買ったんだ。その後も、1994年まではごく少量のワインが、もともとの所有者のラベルで生産されていた。その後、醸造設備やセラーにさらなる投資をした結果、リットンのワイナリーもリッジの品質水準に達することができて、「ソノマ・ステーション・ジンファンデル1995」が生産された。でも、その設備はまだ、さらに上のクラスのワインを造るには不適切だった。それで1998年から、新しいワイナリーの設計を始めたんだ。その間には、リットン・ウェスト(リットン・スプリングスの畑の西半分)が追加で購入され、ブドウの再植が行われた。近い将来、モンテベロ・ワイナリーだけで、すべてのジンファンデルを仕込むことができなくなることはわかっていたんだ。かくして2003年、リットン・スプリングス・ワイナリーが新たに完成したのさ。リットン・スプリングスの生産が出来るようになり、新しい自社畑であるイースト・ベンチのワインもしかり。それ以来、ほかのワインもいくつか、この新しい醸造施設へと移管してきている。一方、モンテベロでは、カベルネの植樹面積を増やしてきていて、将来的には総生産量に占めるボルドー品種の比率が高くなる予定なんだ。とはいえ、ジンファンデルは早熟な品種だから、モンテベロでも引き続きいくつかのジンファンデル、すなわちガイザーヴィル、パソ・ロブレス、ワイナリーのメンバーシップ用ワインをふたつほどと、加えてシラーを造り続けることはできる。こうした畑のブドウの仕込みは、通常モンテベロの畑で収穫が始まるまでに終わるからね。

リットン・スプリングス・ワイナリーが出来るまでは、モンテベロの醸造施設はキャパのギリギリだった。発酵タンクをすばやく空けないといけなかったし、時には理想的な抽出がなされる前にそうせざるをえなかったかもしれない。だが今では、ふたつの施設があって、いずれにおいても時間の制約なしに注意深く発酵と抽出を行うことができる。そのためには、品質を重視するスタッフのチームを、(モンテベロのほかに)もうひとつもつことが必須で、高品質ワインの生産に没頭していなければならない。リットン・スプリングスで私と同じ地位にあるジョン・オルニーこそ、まさにそうした人物なんだよ。彼も私も、ともにポール(・ドレーパー)のもとで同じ哲学、ワインへの厳しさ、品質重視のアプローチを学んできた。モンテベロのセラー・チームと同じぐらい高い水準で働くセラー・チームを、彼もまた率いている。醸造中はお互いの仕事に干渉することはないけど、収穫が終わったあとは協力してワインをブラインドで試飲し、互いに意見を言い合うんだ。ふたりとも、リッジのワイン造りに長年関わってきていて、極めて特徴のあるスタイルにどっぷり浸かってきたから、お互いの仕事をチェックしあうことが重要なんだよ。

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