連載コラム Vol.292

2016ハーヴェストレポート その3

2016年11月2日号

Written by 黒川 信治

2016年のハーヴェストも、大きな喜びのうちに終了した。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート、今年の完結編である。

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10月13日(木)、2016年の最後のブドウをモンテベロにあるトーレの畑より収穫した。

その前の週から、天気予報によって14日(金)から天候が崩れることが予測されていた為、慎重に畑の状態と天候の推移を見比べながら、13日で収穫を終える判断をした。

結果的に、天気予報どおりにその週末はかなりの雨量になったことから、この判断は間違っていなかった。このタイミングで収穫出来たことで、2016年は、ほとんど雨の影響を受けることが無かった。また、その結果、この雨は来年につながる恵みの雨となった。

そして、すべての発酵タンクのプレスを10月21日(金)に終え、2016年のハーヴェストは終了した。

2016年のひとつの特徴は、寒暖を交互に繰り返したことである。1月は気温・降水量ともに平年並みであったが、2月中旬に25℃を超える日があり、ブドウが休眠から目覚めるのではないかと心配する程であったが、3月になり気温がまた下がってくれた。生育期の途中でもその傾向は続き、そして、9月には前回のレポートで触れたように週末暑く、ウィークデーが涼しいという寒暖の繰り返しが見られた。

交互に繰り返した寒暖が、暖かい時にはブドウの糖度を促進し、寒い時には糖度上昇が緩やかになりフレーバーの成熟が追いつくことで、全体に複雑な味わいで色のしっかりして香り豊かなバランスの良いブドウの形成の大きく貢献した。

また、ブドウ品種の収穫が教科書どおりに、Zinfandel Chardonnay Bordeaux品種(CabernetとMerlotは混在していたが)と続いた事も順調な生育期であったことを物語っている。そのおかげで、今年の発酵タンクの数は、二日だけで34基になったが、ほぼ10〜20基で推移して、タンクのやりくりが容易な年であった。

その反面、8月の終わりから10月中旬まで約二ヶ月間、休みなく発酵タンクの管理は必要となった。

そして、特筆すべき事は、これまでRidgeのワインメーカー兼CEOであったポール・ドレーパーが7月に引退表明して最初のハーヴェストであったことである。

実質、ここ数年は、現在のワインメーカーであるエリックとジョンの体制で現場を運営していたので、これまでの年となんら変わるものではなかった。

また、収穫量においては若いブドウと老齢なブドウの木が平年並みであったのに対して、中間の樹齢の木における生産量が低い傾向にあった。このあたりに2012年から3年間続いた干ばつの影響が残っていると思われた。

おそらく老齢な木においては根が深い位置にある水脈に届き、若いブドウは浅い位置で今年降った雨の恩恵を受けられたが、中間の樹齢の木の根の位置まで今年の雨が浸み渡たらず、十分な水分が得られなかったのではないかと推察している。

上記のように過去の干ばつの影響を残しているものの、通常のヴィンテージに戻ってきており、寒暖が交互に訪れた独特の気候パターンも良い方へ作用して、Ridgeの新体制で迎えることとなった2016年も素晴らしいヴィンテージなりそうである。

2016年11月1日
黒川信治

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