連載コラム Vol.290

2016ハーヴェストレポート その1

2016年9月30日号

Written by 黒川 信治

2016年のハーヴェストもはや佳境を迎えている。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第一弾をご覧いただきたい。

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記録的に雨の少なかった2012年からの干ばつは2014年で一応終わったとされているが、2015年も干ばつとまではいかなかったが十分な降雨といえるものでなかった。そこへ来て2016年は近年まれにみる強力なエルニーニョ現象が起きるという予想で幕を開けた。このエルニーニョによる雨への期待は大きかった。強力ゆえに洪水までも引き起こされるのではないかと謂われたが、いざ2016年のふたを開けて見ると、心配されていた洪水など及びもしない平均以下の降雨量であった。

具体的には、1月は平年並みの雨が降った。2月の降雨量は十数ミリで、非常に暖かい春のような気候に日もあった為、ブドウが休眠から目覚めるのではないか心配された。3月に入ってからは平年に近い降雨量があり、なんとかブドウも目覚めることなく一息つけた。その後は、暖かい日と涼しい日を繰り返して収穫期に向かっていった。

そのような中で、モンテベロ・ワイナリーでは8月25日にパソ・ロブレスのジンファンデルから、リットン・スプリングス・ワイナリーでは8月20日に一斉に3箇所の区画のジンファンデルから収穫が始まった。

8月28日にこちらへ着いた当初は、今年は暖かい過ごしやすい日だなあと感じていたが、9月5日に気温が急に下がり冬のような冷たい風が吹いたと思えば、その週末には35℃を超える真夏のような日が訪れた。このようなパターンが3週続いている。気温のアップダウンを繰り返すのが2016年の特徴のようである。

週末の暑さがブドウの生育を後押しして、カベルネの収穫が9月下旬より始まり、9月28日現在真只中である。一方で、ウィークデーの涼しい日が一気に糖度が上がるのを押さえてくれているので、香りがしっかりしているように感じられる。香りのよさに関しては、ブドウの粒が小粒なことも影響していると思われる。

シラーやカベルネなどのより黒いブドウ(タンニンの濃い)で、この良い傾向が目立つ気がする。

収穫量に関しては、平年を少し下回っている。古木の区画の収量が低く、若いブドウの木の区画ではしっかりとした収穫量が確保できている傾向にある。これは、根の浅い若い木には、この冬の雨の恩恵がしっかり届いているが、地下深く根をはる古木には数年続いた干ばつの影響で、この冬の恩恵が届いていない為と思われる。これは、Ridgeだけでなく他社にもみられているようで、あるブドウの樹齢が若いナパのワイナリーにおいて、今年は収穫量が多くて大変であるといわれていた。

今年はジンファンデルから始まり、シャルドネ、シラーときてカベルネ、メルローと規則正しく続いている。若干メルローが遅れている感じはあるが、収穫される品種のタイミングが教科書どおりで、タンクのやりくりは無理なく進んでいる非常に有難い年である。

明日、遅れていたプティ・シラーと遅摘みのジンファンデルの収穫をもって、ソノマ地区が終了し、ボルドー品種のみとなる。

2016年9月29日
黒川信治

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