連載コラム Vol.274

ジャーナリストに愛されるワイナリー

2016年1月29日号

Written by 立花 峰夫

リッジは玄人受けするワインだ。もっと世間で有名なワイン、もっと売れているワイン、もっと高価なワインはいくらもあるが、これほど「プロ」たちに愛されているワイナリーはなかなかないように思う。最高醸造責任者のポール・ドレーパーが昨年5月、英国デカンター誌がアンケートをもとに発表した「醸造家が最も尊敬する醸造家ランキング」のトップ5に入ったこと、2013年にはマスター・オブ・ワイン協会と英国ドリンク・ビジネス氏が選ぶ「「醸造家が選ぶ醸造家賞」を受賞したことは、このコラムでもお伝えしてきた。どんな職業についている人も同じだと思うが、同業者に褒められるのが実は一番嬉しい。私がもし醸造家なら、同じ醸造家たちに認められるのがこの上ない誇りになると思う。

リッジを愛しているのは同業者だけでない。報道の世界に身を置くワイン・ジャーナリストたちにも熱狂的なファンが多い。ジャンシス・ロビンソン、アントニオ・ガッローニ、ジョン・ボネ、エリック・アシモフ、マイケル・シュタインバーガーなど、エレガントなワインを好む書き手は総じてリッジに賛辞を惜しまない。力強いワインが大好きなロバート・パーカーについては、さほどリッジへの「点数」が甘くないものの、彼とてリッジには十分な敬意は払っている。それは、パーカーがキャリアの集大成として2010年に刊行した大著『 The World's Greatest Wine Estates』(邦訳『ロバート・パーカーが選ぶ[最新版]世界の極上ワイン』)に、リッジがしっかり含まれていることからも窺えるだろう。ジャーナリストに受けがよいのは、リッジがもつ知的なイメージも影響していそうだ。文字だけのスタイリッシュなラベルデザイン、「大知識人」ポール・ドレーパー、スタンフォード大学に勤めていた創業者たちなど、リッジにはインテリ好みのスパイスが効いている。

直近では昨年末にもエリック・アシモフからラブコールがあった。2015年に試飲したワインのトップ10を、ニューヨーク・タイムズのコラム(12月10日付け)で発表したのだが、その中にリッジ・モンテベロが入ったのだ。「アメリカで最も偉大なカベルネであることはほぼ間違いない」というアシモフの言葉は、ジャンシスが先日述べたコメント、「アメリカ産ワインの中で最も畏敬の念を払っている一本」に通じている(2015年12月15日の本コラム参照)。

ジャーナリストから愛されているのはモンテベロだけではない。アメリカ人の有力ワインライターであるマイケル・シュタインバーガーは、『Men’s Journal magazine』(2014年6月6日号)の記事において、ガイザーヴィルを「カリフォルニアで最良のジンファンデルであることに加え、おそらくは世界で最も偉大なワインのひとつ」と評した。産地、品種を問わず、最上だと広く認められているワインには狂気じみた値段がつくことを嘆いた上で、その数少ない例外としてガイザーヴィルを挙げている。実力に対して値段が控えめな点もまた、ジャーナリストの愛を勝ち得やすい美徳なのだろう。
2013年6月以前のコラムはこちらから