連載コラム Vol.268

2015年ハーヴェストレポート その3

2015年10月21日号

Written by 黒川 信治

2015年のハーヴェストが喜びのうちに終了した。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート、今年の完結編である。

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前回のレポートで触れた9月30日の雨の話から、今回のレポートをスタートする。

1)モンテベロの雨
雨の降った翌日の10月1日に畑に出てサンプリングを実施。その結果、週明けの10月5日まで様子を見ることにした。最高気温が25~28℃の暖かく穏やかなこの週末は、発酵タンクのポンプオーバーのみとして、ブドウの回復を待った。

週があけた10月5日(月)に再度サンプリングを行い、糖度とフレーバーが戻った事を確認して、10月6日(火)から10月9日(金)にかけて残りの区画を全て収穫することを決めた。このときの雨は、0.1インチ(2~3mm)に満たないものであったので、大勢に影響は無かった。

最後の週はカベルネ尽くしであった。10月6日の「ニューフォスター」のカベルネから始まって、10月7日は、元シャルドネの畑だった樹にカベルネを接木した「ジムソメアのアッパー」のカベルネ、10月8日には最近脚光をあびている長沢鼎のクローンセレクションである1949年に植えた「オールド・ヴァイン」(OV)のファンテングローブ(カベルネのクローン名)と続き、10月9日の「ジムソメアの25エーカー(25AC)」のカベルネをもって2015年収穫の最後を締めくくった。

これらのカベルネは、順調に発酵を続け10月16日にOVと25ACの二つのタンクをプレスして、2015年の一次発酵のタンクが全て終わった。


2)2015年ヴィンテージの総括
2015年ヴィンテージを振り返ってみる

温かい冬が、早い出芽をもたらし、開花も早くなった。その早くなったタイミングは、天候が安定する前であった為、4-5月の悪化した天候の影響により受精がうまくいかず、結実不良がところどころで発生した。その結果、トータルの収穫量が減少。特にメルローが顕著であった。メルロー以外は平均比20~30%減であったが、メルローは60%減となっている。これはメルローの開花期のタイミングが悪天候と諸に重なった為である。

収穫量の減少が旱魃の影響という話もあるが、開花期の遅いPaganiランチにおいて、今年の収穫量が昨年を上回っている現象を考えると、この開花期の天候の影響の方が大きかったと思われる。

6月以降雨が降らず、晴天が続いたことに、収穫高が少なかったことが重なって、ブドウは成熟を早めた。そして、今年も昨年に続き小粒で濃厚な果実が出来上がった。

そこから造られるワインもタンニンと色のしっかりした濃厚なものになっていて、酸もしっかりしている。まさに長期熟成タイプのワインに仕上がりそうである。

3)スーパー・エルニーニョ
今年の冬、これまで記録されている中でも、トップクラスの強いエルニーニョの影響がカリフォルニアでも起こる可能性が示唆されている。この予測に従えば記録的降雨をもたらすこととなると言われている。

現在、長期旱魃による水不足に悩むカリフォルニアにとっては有難い話のようであるが、洪水などの大きな被害も懸念されている。乾いた地面に水か吸い込まれず地面の上を走る現象を恐れる声が多い。

これとは別に10月15日の昼ごろ急に停電となった。

モンテベロ・ロードで倒れるオークの大木

Ridgeへアクセスできる唯一の道であるモンテベロ・ロードの途中でオークの大木が倒れ、たまたま走っていたトラックがそこでクラッシュして電線に影響が出たようである。


長い期間の乾燥状態で環境に変化がおきており、このように木が倒れるといったようないつも起こらないような現象(被害)も懸念されている。

旱魃の続いた不安定なカリフォルニアで、エルニーニョがどんな連鎖反応を起こすか神のみぞ知るところであり、来年の収穫期へ影響を及ぼすものかどうなのか。

矛盾したムシのよすぎる話であるが、何事も無く水不足解消につながる相当量の雨を期待しつつ、2015年の収穫を終える。そして、2016年のハーヴェストを無事迎えられることを願ってやまない。

2015年10月20日 黒川信治
2013年6月以前のコラムはこちらから