連載コラム Vol.267

2015年ハーヴェストレポート その2

2015年10月1日号

Written by 黒川 信治

2015年のハーヴェストがクライマックスを迎えている。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第二弾をお届けする。

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1)Zinfandelの収穫終了
9月15日にガイザーヴィルの畑で最後のジンファンデルが収穫され、今年のジンファンデルは、パガニランチを残すだけとなった。ソノマにあるリットン・スプリングス・ワイナリーでも、この日に最後のブドウを受けいれている。収穫が始まってほぼ一月である。

前回も少し触れたが、2015年の早い収穫は、長く続いている旱魃の影響もあるが、何よりも大幅な収穫減に起因するところが大きいようである。

冬が暖かく出芽は早かった。そして開花の時期に気候が悪くなり風の影響などで、結実がうまくいかなかった。実際に収穫されたブドウを見てみると不完全な房が混じっている。不完全な房とは、熟成している果粒に混じって、結実不良のグリーンなままの直径1〜2mmの未熟果が混在しているもので、多いものでは未熟果が半分くらい占めるものみられた。そして、収穫量が少なくなった分、成熟が早くなった。

成熟が早いイコール、ハンギングタイム(樹にぶら下がっている時間)が短くフレーバーの生成を気にする声もあるようだが、今年のブドウにおいて、その心配はないようである。

2)収穫が始まって最初の雨
今年は、内陸部の高気圧が強く、雨の予報は出るが高気圧に阻まれ低気圧は上陸できずに結局雨に至らず、雨は6月以降、記録されていなかった。そして、ついに9月16日にナパ、ソノマで雨が降った。

ジンファンデルの収穫をほぼ終えた翌日であったこともあって我々には恵みの雨ともいえる。そして、このときも天気予報に反して、モンテベロまで雨雲は届かなかった。

雨の後、サンプリングによって問題ない事を確認し、9月20日からパガニの収穫を開始し、9月25日の収穫を持ってモンテベロ以外のブドウは完了した。

収穫減は予想されていたが、その予想を上回る厳しい状況であった。そんな中にあって、幸いな事は、品質が非常に高いワインになりそうなことである。

3)ボルドー品種の収穫が本格的化
ジンファンデルを初めとしたソノマ地区での収穫が落ち着いてきた9月10日から、モンテベロでのボルドー品種の収穫が少しずつ始まり、9月15日を境に本格化していった。

モンテベロのカベルネもジンファンデル同様に結実不良がみられ、収穫減となっている。

どれほどの収穫減になるか終わってみなければはっきりしたことは言えないが、2008〜2010年にかけて新しく植樹したルーストン並びにトーレ・ブドウ園の若木がしっかり実をつけているおかげで、カベルネの収穫減は多少緩和されるのではないかと期待している。

4)次々に起こるハプニング
9月17日にネット環境が悪くなり、ネットは途切れ途切れで、21日までの4日半、電話が不通となった。24日には、新しく導入したユーティリティ・システムのプログラム・エラーによる温水の温度異常が発生。時期を同じくして、ブドウを除梗機へと導くコンベアが、濃厚な糖分の影響もあって頻繁に停止を繰り返す不安定な状況に陥った。また、24日の19時頃、パガニ・ランチのクラッシュが終わった瞬間に、ブドウを受入れるためのクレーンが故障。翌朝修理して再開したが、結局、クレーンを予備のものと交換するというトラブルが続出した。全て、大事に至らずクリアできたのは、日頃の準備があったとはいえ、きっと幸運に恵まれたのだと思う。

ただこの一連のハプニングの極めつけは、分析担当者が不在となったことである。リッジでは、分析専属の担当者が一人いて、収穫時期などの繁忙期にはアシスタントを雇い二人体制で、果汁の分析や発酵途中のワインの残糖、リンゴ酸(MLFの経過観測)などのチェックをタンク毎に随時行っている。その担当者が9月15日をもって急遽不在となったことで、その翌日から、分析部門のカバーもしなくてはならなくなった。2013年にも同様の状況があり、その再現である為、何事も無かったかのように、事態を受け入れ淡々と今日に至っている。

ワイン造りは、自然を相手にいているせいか、いつ何が起こるかわからない。そのため、ワイン造りに関わる人達は、何が起こってもそれを受入れ、その状況下でのベストの策を見つけるという免疫耐性を身につけているように感じさせる。そんなことを思い起こさせる二週間であった。

ここに書く予定でなかった項目5)を追加した。

5)モンテベロの雨
何が起こるわからない話を書いていた矢先である9月30日の10時過ぎに急に雨が降り出した。その後、降ったりやんだりで降水量は少なそうだが、夕方まで、ぐずついた天気が続いた。残りのブドウは10区画を切っているのと、たいした雨量で無い為、大勢に影響はないと思われる。

降ってしまったものは、仕方ないと受け入れ、明日からのベストな収穫計画を練りなおすことになった。

2015年9月30日 黒川信治

2013年6月以前のコラムはこちらから