連載コラム Vol.262

ジャンシス・ロビンソン モンテベロを再訪

2015年7月15日号

Written by 立花 峰夫

イギリスを代表する世界的ワインジャーナリストのジャンシス・ロビンソンが、今年の2月にリッジのモンテベロ・ワイナリーを訪問し、リッジを含むサンタ・クルーズ・マウンテンズの秀逸なワイナリーを紹介する記事を、自身のウェブサイトに発表しました。下記はその抜粋です。

「リッジ・ヴィンヤーズの醸造家であるエリック・ボーハーは、いつものごとく柔らかい物腰の中に情熱をのぞかせていたものの、疲れているようにも見えた。前日に3,000個ものコルクを嗅いで、十分に清潔で新鮮かどうかを確認していたからだ。世界的に高名なモンテベロの、2013年ヴィンテージを大瓶に詰める際に使うためである。アモリム社(訳注: 最大手のコルクメーカーのひとつ)の最高級品を注文していても、2%近くは返品せねばならないという。

そうしたわけで、リッジでも代替栓について実験を行うことになり、ワインの一部は毎年スクリューキャップで瓶詰めされている(ガラス製のヴィノロックも試したことがあるのだが、結果は思わしくなかった)。19世紀後半に建てられたオンボロ小屋がいくつか集まったこのワイナリーは、どの国道からでも半時間近くは山道を登らないとたどり着けない場所にあり、革新には縁遠そうに思われる。リッジのモンテベロ1971年は、2006年の『パリスの審判再戦 カリフォルニア対フランスのテイスティング』で輝かしい勝利を収めたのだが、そのワイナリー全体の魂とも言えるのが、『前・工業的ワイン造り』と彼らが呼ぶものである。この精神は、有機栽培で何十年も耕作されてきた、モンテベロのブドウ畑の長い歴史に啓発されたものなのだ。(中略)

しかしながら、リッジは消費者に届けられるワインの品質についても、この上ないこだわりを持っている。比較的最近導入された革新のひとつが原料のラベル表示であり、ワインに加えられたあらゆるもの――必要であれば水さえもが、裏ラベルに記されている。

リッジのラベルは、かねてからずっと情報開示のお手本であり、ワインオタクの喜びそうな内容が、独自の個性的な書体で印刷されていた。その上、2011年ヴィンテージからは(ただし、EU向けの輸出分については2012年から/ブリュッセル(EU本部)の厳しい要求をクリアするために、何ヶ月も準備にかかったのだろう)、リッジのあらゆるワインにおいてあらゆる原料物がひとつ残らずラベル上で見られるようになった(モンテベロ以外にも多数のワインがある)。これはいかにもリッジらしいやり方で、すなわち『何も隠すべきものはない』というアプローチである。工業的な添加物を頼りにしていないなら、もちろんこうしたアプローチも取れるのだ。ワイン消費者の大多数は、原料物リストなどきっと気にもとめないだろう。だが私個人としては、ワイン生産者がどんなことでもつまびらかにするよう、義務づけられればいいのにと思う。そうなれば、誰が善玉なのかが簡単にわかるからである」
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