連載コラム Vol.255

サブマージド・キャップ・マセレーション その2

2015年3月31日号

Written by ポール・ドレーパー

(前回からの続き)
「私が69年にリッジに参画したときには、容量4トンの発酵タンクがひとつあるだけだった。そこですぐに、同じサイズのタンクをもうひとつと、1トンのタンクを多数導入した。すべて上部開放式のタンクで、ブドウを液中に浸しておくための木製格子が取り付けられるようになっていた。さて、1967年以前、デイヴはまだスタンフォード研究所(SRI)で働いていて、それは他の創設者たちも同じだった。収穫時期でも彼らがやってくるのは週末だけで、熟したブドウを摘んで破砕し、発酵タンクに入れて果帽を格子で沈め、また平日の仕事へと戻っていく。リッジに戻ってくるのは次の週末である。この初期のヴィンテージにおいては、サブマージド・キャップの技術が必要不可欠だったのだ。ブドウの果皮が空気に触れてしまい、酢酸が生成されるのを防いでくれるからだ。この技術のおかげで、創設者たちは初めから、健全で驚くほど強靭なワインを生み出すことができた。平日のあいだ、ワインを見守ることができなくてもだ」

「1971年になると、私は醸造設備を古くからあるモンテベロ・ワイナリーの建物へと移した。以前の場所から1マイル山道を登ったところにあり、1968年に購入したものだ。加えて、ミューラー社に容量2000ガロンのステンレスタンクを3つ注文した。新しいタンクは上面が閉まるタイプだったのだが、導入した年には、木製の格子を組んで果帽を液中に沈めた。その一方で翌年以降のために、私は新しいタンク用のステンレス製格子と取り付け部品をデザインした。1970年代を通じて、カベルネとジンファンデルの両方にこの技術を使った。だが1980年代になると、カベルネのタンニン抽出をより高い精度でコントロールするために、カベルネについては果帽を浮かせてのポンプオーヴァーを行うようになった。比較的タンニンの少ないジンファンデルの一部については、ゆっくりと十分な抽出を行うために、サブマージド・キャップを使い続けている」

「この技術に関して、嬉しい驚きがひとつあった。デイヴがこの古い手法を取り入れた際には知らなかったことである。半島中部空地地区保護団体(MPROSD)が、リッジから山を下ったところにある19世紀設立のピケティ農園を購入したあと、古いワイナリー施設の刷新を行った。そのとき、タンクを収めた建屋から、大型の上部開放式発酵タンクと、巨大な円形のセコイア製格子が見つかったのだ。その設備について尋ねられた際、私は1870年代から発酵中にサブマージド・キャップの技術が使われていたのだと悟った。昔のモンテベロ・ワイナリーでも、似たような格子がサブマージド・キャップのために用いられていたと考えて良さそうに思われる。禁酒法以前の時代のカリフォルニアで、この技術がどの程度普及していたのかはわからないのだが、今日でもピケティのワイナリーでは、巨大なセコイア製格子が壁に飾られている。1959年に我々が再発見したアプローチは、この地で100年以上もの伝統がある技術だったのだ」

ポール・ドレーパー
2014年10月
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