連載コラム Vol.254

サブマージド・キャップ・マセレーション その1

2015年3月13日号

Written by ポール・ドレーパー

収穫時のワイナリーはちょっとしたスペクタクルである。栽培チームは興奮の渦の中でブドウを摘み、醸造チームが届いたブドウを細心の注意で仕込んでいく。恐るべき量のエネルギー、協力体制、指示采配があって初めて、ブドウがワインに変わるプロセスをうまく導ける。2014年10月の今、発酵タンクは満杯で、さらにブドウがやってこようとしている。この時にこそ、リッジが一部の発酵タンクで今も用いている、相当異例なとあるテクニックについて、論じるのも良いだろう。「シャポー・シュメルジェ」(仏語)、または「サブマージド・キャップ」(英語)と呼ばれるものである。以下ではポール・ドレーパーが、リッジにおけるこの技術の歴史を紹介してくれる。

「創設者のひとりで、当初醸造を担当していたデイヴ・ベニオンが、リッジにもたらした伝統のひとつがこの技術、サブマージド・キャップ・マセレーションである。彼が退いたあとも使われ続け、今日でもジンファンデルの一部で用いている。その始まりは、ベニオンが110リットルほどのモンテベロ1959を、発酵させた大きな桶だった(このヴィンテージは、リッジが19世紀に操業していたワイナリーを、再設立する前に仕込まれたものである)。デイヴと妻のフランは、ワインの発酵中に休暇で旅に出ることになったのだが、そうすると毎日の仕事である果帽の「パンチング・ダウン」(ピジャージュ)ができなくなる。そこでデイヴは、木材を格子状に組んだものを桶に取り付け、ブドウの果皮でできた果帽が液中に浸ったままになるようにした。デイヴとフランが二週間の旅から戻ると、ワインの発酵が終わり辛口になっていたので、搾汁して通常の半分の大きさの小樽に移し、熟成させたのち瓶詰めをした(6か月ごとに澱引きもした)。デイヴが格子を用いて行ったのは、非常に古くからある技術で、確か彼は何かで読んだことがあったのだと思う。19世紀にはフランスの多くの地域やヨーロッパの一部で用いられており、20世紀に入っても多少は使われ続けたこの技術は、サブマージド・キャップ・マセレーションという名であった」
(次回に続く)
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