連載コラム Vol.244

2014年ハーヴェストレポート その2

2014年10月16日号

Written by 黒川 信治

2014年のハーヴェストも喜びのうちに終了。現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第二弾をお届けする。

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2014年のハーヴェストが、10月6日に収穫したブドウを10月13日にプレスして終了した。

<昨年から続く大旱魃の影響>
前回に引き続き、すべてに影響を与えた旱魃の話題から。

2013年が、1890年代に始まった観測史上ワースト1位の旱魃で、今年が3〜5番目に雨が少ない記録となりそうである。そのようなカリフォルニア州全域にわたる旱魃で、多くの作物がダメージを受けている中、幸いなことにワイン用のブドウは大きな被害を免れた。あるワイナリーの人は、“We Dodged a bullet.”(「弾丸を避けた」(直訳)、「惨事を免れる」(辞書))という表現している。運よく旱魃の被害を回避できたが、際どかったことを物語っている。

通常多くの雨がふる12月〜2月の雨が少なかった。特に1月は温暖で全く雨が降らず、ブドウの生育が始まってしまうのではないかと危惧したほどである。そんな中で、2月と3月に数回に分かれ5〜10mm程度の雨が降ってくれた。これは、「適材適所」ならぬ、「滴在適所」であった。(必要なときに雨が存在したという2014年に天候に合わせた私の造語であるが、)ブドウの生育にあわせて必要なときに、絶好のタイミングで雨が降ってくれたお陰で生育に問題なく収穫できたのである。

そして、旱魃の影響で小粒になったブドウから、「美しいフレーバー、官能的なアロマ、しっかりした色」のワインがカリフォルニア全域で出来上がりそうである。

Ridgeにおいても、同様な傾向は見られ、カベルネやシラーなど、元々色の濃い品種にその傾向が強く、力強さを兼ね備えたワインになっている。

<理想的な生育期>
ナパでは、7月30日にシャンパン用のブドウから収穫が始まっている。

そして、RIDGEの収穫が終わった10月6日の現地の記事によれば、「収穫は大詰めを迎え、来週には大半の収穫が終わるであろう」と書かれていた。珍しく各社の足並みが揃ったヴィンテージといえそうである。その理由の一つとして推定できるのが、カリフォルニア全体を均一に覆った高気圧であった。ただ、この高気圧は理想的な温暖さをもたらし、春先から生育期を通して、ヒート・スパイク(熱波)と呼ばれる日が無く、夏も25〜35℃(30℃以上は少ない)であった。そのため、スタートから順調に生育し、2〜3週間早かった生育期のスタートが、そのまま収穫につながったと思われる。

また、収穫が早かったことで、収穫後の畑に多くの葉が緑のまま残っている。実が無くなった状態で光合成によりつくられた養分は、蓄積され来年の生育に役立つことになる。

まさに理想的な収穫期であったが、完璧にする為には、雨を待つばかりである。

<短期間集中の収穫>
非常にコンパクトなハーヴェストであった。

短期集中型で、収穫に没頭していた為、8月末に起こった地震が過去の遠い記憶のようだというナパのワインメーカーもいた。いかに忙しかったかを物語っていて、超多忙な状況が色々なことを脳裏から排除してくれるという意味で、なんとなく理解できる様な気がした。

RIDGEでも8月26日に始まり9月24日で、ほぼ99%のブドウをクラッシュしていたので、2014年のハーヴェストは丁度30日であり、例年の1.5〜2ヶ月に比べかなり短縮されており、実際に働いた実感としては2014年のワイン同様に濃厚で、2ヶ月経過しているような感覚である。

<ルーストン>
2008年から2009年に植樹したモンテベロにある新しい畑のルーストンからブドウが収穫され始めて3年くらいになるが、今年は収穫量も増え、品質面でもすばらしい出来であった。

特にルーストンのプティ・ヴェルドは秀逸で、房・粒ともに見た目が日本の店頭に並べられるくらいきれいでいて、味もすばらしかった。他のブドウもいい状態で収穫されていた。

まだ、若い畑であるが、昨年は2〜3のブロックがモンテベロに使われている。今年も、その可能性は高く、来年以降も期待も持てそうな気配であった。

また、この畑に2011年に植えたシャルドネが今年いい状態で収穫されている。来年あたりから本格的に収穫され、その品質に期待が膨らむ。

<総括>
2014年は旱魃であること、イコール好天が続いた事で、収穫が早かった。また、ほぼ一斉に収穫のタイミングが訪れたことで、コンパクトなハーヴェストとなった。

旱魃の水不足による使用制限の中、洗浄に莫大な水を使うミストラルが使えなかったが、今年のブドウは乾燥していたこともあって健全な果実が多く、品質面からのミストラル(選別機)使用の必要性は低かったように思われ、ミストラル未使用のヴィンテージにこの数年と比較して有意差は無いと感じられた。

深い色合い、しっかりしたフレーバーという良好な品質になりそうな2014年は、2012年から継続する一連の良いヴィンテージのひとつ連なる予感がする。

後は、幾つかのタンクの一次発酵がやや遅れ気味なので、それが順調に進んでくれる事、そして、2015年に備え、カリフォルニア全域で、雨を待ち望んでいる。

2014年10月13日 黒川信治

2013年6月以前のコラムはこちらから