連載コラム Vol.243

2014年ハーヴェストレポート その1

2014年9月17日号

Written by 黒川 信治

2014年もハーヴェストが始まった! 現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第一弾をお届けする。

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2014年の収穫がピークを迎えている。今年は色々あるので、テーマ毎に分けてみた。

<ナパの地震>
まずは、8月24日深夜3:20に発生したマグニチュード6.0のナパの南部を震源とした地震について触れる。

今年は収穫が早く、ナパ&ソノマでは7月末にスパークリング用のブドウから始まっている。多くのワイナリーにおいては、収穫を目の前もしくは始まったところで、この地震があった。被害を受けたワイナリーでは仮設で収穫を開始している所もあるようだ。

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被害を受けた方々には謹んでお見舞いを申し上げさせていただきます。幸いリッジは震源から離れていることもあり、今回は被害を免れることが出来ました。多くの皆様よりご心配の言葉を賜り、誠に有難うございました。この場を借りて、御礼を申し上げます。

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<昨年から続く大旱魃>
ナパの地震がなければ、真っ先に触れなければ成らなかった大旱魃。 毎日ニュースをきいて”Drought”(旱魃)と言う単語を聞かない日が無いほど、カリフォルニアは、このニュースでもちきりである。

実際の旱魃は昨年から始まっている。昨年の降水量は観測史上最低であり、今年は観測史上5-6番目になるのではないかと言われている。

本来、多くの雨が見込まれる冬でさえ、その雨が降らなかったことで、今年への影響が大きい。実際、雪解け水としての水源であるシエラネバダの雪塊も3分の1になっているとのことである。この冬、まとまった雨が降らなければ、来年はさらに深刻な問題になることは間違い無い。

今年のブドウの出来に限って言えば、この旱魃がブドウの粒を小さくして、力強いワインになることに貢献してくれたように思われる。

<スタートはシャルドネ>
リッジでは、毎年パソロブレスもしくはソノマのジンファンデルで収穫が始まる。

場所は違っても、品種は決まってジンファンデルから始まるパターンが通常である。しかし、2014年の収穫は8月26日(火)にルーストンのシャルドネからスタートした。シャルドネから開始するハーヴェストはかつて無い。

その週は継続してシャルドネの収穫が行われ、9月15日のジムソメア・ミドルの畑をもって、全てのシャルドネの収穫が終了した。

春先が乾燥していると結実もよく、今年のようなドライなヴィンテージでは、生産高もまずまずで、いいシャルドネが出来ることが期待出来る。

<全てが一斉に成熟>
シャルドネが、いつもより早く収穫されたのに対して、ジンファンデルは平年並み、もしくは、若干早めの収穫となっている。

29日(金)初めての黒ブドウであるジンファンデル・マゾニが収穫された。その後、パソロブレスと、いつもの常連が名を連ねた。

ただ、いつもと違ったのがカベルネ・ソービニオンである。平年に比べて極めて早く収穫期が訪れている。メルローが9月中旬に収穫されることは、たまにあるが、カベルネはほとんど9月末か10月初旬である。それが2014年は、9月初めに収穫されている。これを書いている9月15日に畑を見た限りでは、今週中にほとんどのメルローとカベルネを収穫したほうが良いような状況である。プティ・ヴェルドだけが唯一で遅れている感じがする。

極めて珍しいことであるが、ジンファンデルが全て終わる前にカベルネの収穫が終わってしまうかもしれない。

<出遅れて参加>
そのような早い収穫のスタートの年であるにも関わらず、外せない要件があって、2014年ハーヴェストへの参加が9月3日になった。

3日、昼過ぎに空港から直行すると、すでに収穫&クラッシュ真只中であった。その日は、7時頃までクラッシュを行い計9基のタンクにクラッシュしたブドウを送り込んだ。この日に仕込んだブドウは52tとほぼMaxであり、一番忙しい日に到着した模様。

到着する前日の9月2日時点で、既に129t(シャルドネ41t)。 それが、その週明けの月曜日には320tとなり、発酵中のタンクも46基と発酵タンクは満杯になった。

これを書いている9月15日時点で、今年の収穫の3分の2近くが終わって先が見えてきている。まだ、こちらへきて2週間も経っていないが、既に1〜2ヶ月経過しているような目まぐるしい感覚を受けている。

<マウンテンライオン騒動>
ご存知の方も多いと思うが、リッジは、最近話題のiPhone 6で有名なアップル・コンピューターの本社と同じクパチーノ市にあり、そのアップル・コンピューターに「マウンテンライオン」という名前のOSがある。

古くは、この辺りでグリズリー(灰色熊)やマウンテンライオン(クーガーやピューマとも呼ばれる)が良く見られたらしいが、流石にカリフォルニア州の旗になっているとは言え、グリズリーは見かけない。しかし、未だにマウンテンライオンは、犬や猫を襲ったとして、ニュースに取り上げられることもあり、アップルのOS名の由来になったのではないかと推察する。

そして今年は、そのマウンテンライオンが、大きな話題に。

「9月7日、マウンテンライオンが、近くのピケッティ・ワイナリー近辺のモンテベロ・ロードを両親と共に歩いていた6歳の子供を茂みに引張り込んだ」ことより、TVの中継車が沢山ピケッティに殺到した。(リッジは、そのモンテベロ・ロードの上りきったところにある。)その子は、幸いすぐに助けられ病院へ運ばれ軽傷で済んだらしい。

その後、この子を襲ったマウンテンライオンは「9月11日にハンターによって仕留められた」という話であるが、「撃ち殺されたのは小さいやつで、大きい奴はまだその辺にいる」という物騒な話もある。

私がリッジに来て15年になるが、マウンテンライオンとの遭遇に気づいたのは2度しかない。基本的に向こうが離れ行ってくれるので、危険を感じたことはなく、ガラガラヘビのほうが気になっている。

いずれにせよ、マウンテンライオンが人間を襲うことは珍しく、ここにも、大旱魃の影響があるのではないかと思った次第である。

兎に角、2014年は、慌しくあれこれハプニングの多いスタートとなった。

2014年9月15日 黒川信治

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