連載コラム Vol.222

2013年ハーヴェストレポート その3

2013年10月23日号

Written by 黒川 信治

2013年のハーヴェストもいよいよ終盤。前回に引き続き、大塚食品の醸造家 黒川信治氏のレポートの第三弾をお届けする。今年のハーヴェストレポートは今回が最終回となる。

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10月16日のジムソメアの2つのジンファンデルで、2013年の収穫の幕を閉じた。

1900年に植えられたオールド・ジンファンデルと1996年に植えられたヤング・ジンファンデルである。

10月1日にこの区画のサンプリングした際の糖度が、古木22.0度、若木18.9度と他の畑に比べ大幅に生育が遅れていたことから、「ジムソメア・ジンだけは、今年は成熟しないのではないか」とワイナリーでは、半ばあきらめかけていたが、その2週間後には十分な成熟した味わいになり、糖度も24度を超えた。現在、両者共にタンクで発酵中であるが、古木の方がいい味を出している。

若木と古木では、どちらが良いかという話は、よく話題になる。それぞれにメリットとデメリットがある。

若木のメリットは、勢いのよさで収穫量が多く、栽培管理がしやすい。それゆえ20-30年経過した時点で畑の植え替えを行うワイナリーも多い。

古木のよさはなんと言っても古木から作られるワインの複雑さである。

古木の根は、幾つもの地層に渡って地中深くまで延びているので、乾燥した今年のような時でも灌漑の心配が要らない。さらに、幾つもの地層の様々な成分を吸い上げる。また、水をくみ上げる能力が若木より劣っている分、ブドウの果実が小さくなる。つまり、様々な成分が凝集される分、若木より濃厚で複雑な味わいになりやすい。

古木は、このようなよさを持つ反面、収穫量が低く、長い年月の間に病気にかかるものも多く、栽培に手間がかかる。栽培者に愛情がないと古木畑の管理は難しいが、畑の個性を表現できたときには素晴らしいものになる為、努力の甲斐はある。

樹齢100年と一言で言うのは容易いが、栽培者に恵まれ、禁酒法の時代を乗り切ったブドウの木が残っていること自体、奇跡的なことであり、非常に貴重な木々である。

リッジには、ジムソメア以外にもこの貴重な樹齢100年を超えるブドウの木が、幾つかある。リットンスプリングス(1901と1910年)、ガイザーヴィル(1882年)、パガニランチ(1896年から1920年)に、100年超えのブドウの木が今も若いブドウの木と一緒に植えられていて、単一畑の個性を引き出す為に大きな役割を担っている。

だからと言って若木を否定しているわけではない。

今年、異彩を放ったのが、2008年に植えたルーストン葡萄園のブドウであり、今年は、そのルーストン葡萄園の収穫が本格的になった年である。ルーストンでは、雑木林や牧草地になっていた所を開墾してブドウを植えた。開墾当時、木を伐採した後の根を掘り返すと、石灰岩の石塊がごろごろ出てきた石灰岩土壌の畑で、ジムソメアのすぐ上に位置している。このルーストンでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを2008と2009年に植え、2010年にシャルドネを植えた。

そして、2013年ヴィンテージの収穫高は、それぞれ18t、8t、2.6t、4.5tとなっていて、品質も上々であった。非常に深みのある味わいで、2012年のモンテベロに既にこの畑のブドウが使われている期待の大きい畑である。

この畑の拡張に伴いワイナリーでは、今年、新しいタンクを入手した。これまでのものよりやや縦長のタンクで、発酵時のキャップ(果帽)が深くなる為、抽出効率が良くなっているように感じた。ブドウ、タンク共にいい結果が出ている。

セラーに目を移すと、勤続40年を超えるポール・ドレーパーは勿論のこと、エリックもリッジに来て20年目のハーヴェストを迎えて円熟さを感じさせている。セラークルールにおいても、60代、50代、20〜40代が4名ずつとベテランよりな気もするが、ここでも、しっかり古木と若木が融合している。

「14回目のハーヴェストを経験した自分は果たして、若木なのか、古木なのか?」という疑問が沸いたが、実年齢はさておき、気持ちが30代の私は、答えは出さず、ブドウの木のようにただ来年に備えることにした。

さて、最後に 2013年ヴィンテージを振り返ってみる。

前回のレポートにも書いたが、2013年を一言で言うと「ドライ・イヤー」である。

4月初旬を最後に、本格的な雨が降らなかった年である。晴天続きの暖かい春が、平年より4週間程、開花を早めたが、夏の気温が上がらなかったことと、結実がよく収穫高が多かったことで、ブドウの成熟に時間を要し、収穫が始まったのは平年と大差ない9月に入ってからであった。最後の段階で、じっくり穏やかに成熟しているので、香りは良好である。

収穫が6割程度終わった9月21日に最初の雨が降ったが12~15mmと少なく、その後も9月29日にパラついた1mm程度の霧雨以外は好天に恵まれ、完全に雨の影響をリカバーでき、問題なく収穫を続けられ無事収穫を終えた。勝手なもので、収穫が終わった瞬間から我々は雨を待っているが、未だに晴天は続いている。来年に備え水を必要とするからである。

今年のワインの出来は、乾燥した気候の影響で、果粒が小さめで色と香りがしっかり抽出されやすい傾向にあった。それを反映して色と味の深い濃厚なワインになっている。まだ、発酵途中のものが多いので断言できないが、若木と古木から収穫されたブドウを織り交ぜて造られる2013年の濃厚なワインは、非常に楽しみなワインが多く、好印象を受けている。いいヴィンテージになることは間違いなさそうである。

質・量ともに素晴らしかった2012年に比べ、収穫高はわずかに下回ったものの品質は甲乙つけがたい年になると予想される。

2013年10月21日 黒川信治

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