連載コラム Vol.220

2013年ハーヴェストレポート その1

2013年9月18日号

Written by 黒川 信治

2013年もハーヴェストが始まった! 現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治によるレポート第一弾をお届けする。

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今年は、最初にピークがやってきた。

2013年のハーヴェストの始まりは、いつものお決まりの最南にある畑 パソロブレスからであったが、その後がいつもと違う様相をみせた。

演劇では、静かな序章から始まって、だんだん盛り上がっていくことで、観客も舞台と一体化するものである。収穫作業も毎年行われていると言うものの、例年であると「まずは、畑の違うジンファンデルから始まって、しばらくしてシャルドネ。9月23日頃にメルロー。10月初めにカベルネ」と序章からクライマックスへと流れていき、造り手の収穫モードも、それに合せてモンテベロ・モードになっていくのが理想である。

それが、2013年はジンファンデルの収穫が始まったと思ったら、シャルドネ、カベルネの収穫期を同時に迎えている。

最初に収穫されたシャルドネとカベルネが、2008〜2009年に新しく植えた若木であったことも早い時期に収穫された理由ではあるが、その後、古木のシャルドネ、カベルネと続いているので、やはりいつもと違ったヴィンテージであることに間違いない。

この若木の植えられているルーストン・ヴィンヤードについては、次回以降のレポートで触れたい。

2013年の生育期を振りかえりみながら、このいつもと違った現象を紐解いてみる。

春から夏にかけて非常に乾燥していたことが、2013年一番の特徴である。モンテベロ、リットンの両エリアともに4月4日の少雨を最後に雨らしい雨が降っていない。

雨の降らなかった春は温暖な気温になり、生育は早く進んだ。

5月に渡米した時点では、平年より1ヶ月近く早い開花を迎えていた。実際に30℃を超える日が4〜6月の3ヶ月で毎月観測されている。その為、5月末には、「今年の収穫は、8月中旬〜下旬の早い開始となるのではないか」という声があがっていた。ところが、ふたを開けてみると8月下旬になっても収穫は始まらない。

その理由として、夏の気温が上がらなかったことが考えられる。

7月・8月における1日の最高気温の月平均がモンテベロで24。4℃、リットンで29.1℃。モンテベロの8月の最高気温は29℃とカリフォルニアの夏にしては低い。この為、先行していた生育期が後戻りした結果、9月の収穫開始となった。

収穫が予想された8月下旬には、多くのブドウ品種が完熟一歩手前には到達していた。そこへ来て9月に入ると気温が上がり始め、9月5日にはモンテベロでも30℃を超えた。

表面張力で満杯になっているコップを溢れさすには一滴の水で十分なように、収穫一歩手前のブドウには、30℃前後の気温で、収穫モードにシフトするには充分であった。

こうやって9月初旬に百花繚乱のごとく、幾つかのブドウ畑の多品種が一斉に熟成して、2013年の収穫開始早々のピークとなった次第である。花を観賞するのであれば、百花繚乱は楽しい限りであるが、ブドウが一斉に熟成するということは、一気に収穫をしなくてはならないということになる。収穫開始してしばらくは、間引き運転で収穫の無い日があるのが常であるが。今年は収穫開始早々フル稼働である。

手摘み、手作業によるクラッシュでは限界があり、限界いっぱいでの収穫が9月3日に開始して依頼、9月5日を除き毎日継続している。そして、9月15日現在、クラッシュしたブドウ数量はモンテベロ、リットン共に、今年の予想収穫数量の半分に近い300tを超えている。

そこへ来て、今年は分析担当のカレンがいない。

ワイナリーにおける分析業務は非常に重要である。

リッジがいくらテースティングで、全ての工程を確定しているといっても、1年先、2年先にはそのデーターは人の記憶にしか残らない。コメントを残せるが、AとBの違いは明確にすることは難しい。その為、あらゆるデーターを残すには数値が一番であり、それを表現する為に分析値が重要である。

その分析を15年近く担当してきたカレンが、今年の収穫には不在だ。彼女は、いつも最低一人のアシスタントを雇い、膨大なこの分析業務を処理している。そのアシスタントだけでなく、今年のモンテベロにはインターンもいない。2013年ヴィンテージは、いつもより2、3人少ないことになる。そこへきて、最初からピークである。

そんな状況下でも、今現場を任されている3人が、皆、分析経験を持っているのが唯一の救いである。

最後にブドウの品質である。

2013年の天候は決して悪い影響を与えるもので無く、ブドウにとっては有難いものであった。最後の熟成のステージをゆっくり迎えることが出来た結果、小粒で色と香りのしっかりしたブドウになっている。

病気や傷みが少なく、きわめてきれいな房が目立つ。乾燥した年であり、適度な気温の夏を健全にすごした結果、「カビなどの病害がつけ入る隙が無かった」年といえる。

ここまでは、昨年に続きグレート・ヴィンテージを予感させる。2013年ヴィンテージは、この後の「天候」と「3人のコンビネーション」次第である。

2013年9月16日 黒川信治

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