Written by 立花 峰夫
イギリス随一のワイン・ジャーナリストであるジャンシス・ロビンソンMWは、リッジのジンファンデルが大好物だ。キャリアの早い時期からジャンシスは、リッジが誇る二枚看板のジンファンデル・ブレンド、ガイザーヴィルとリットン・スプリングスについて、品質の高さと寿命の長さを、驚嘆の念とともに特筆していた。彼女が1989年に発表した、長寿ワインの熟成曲線を論じた書籍 『ヴィンテージ・タイムチャーツ』には、ボルドー、ブルゴーニュといった旧世界銘醸地の錚々たる面々とともに、ガイザーヴィルが取上げられている(モンテベロ赤も同様で、リッジはこの本で2銘柄が紹介された、唯一のワイナリーだった)。
そのジャンシスが2025年4月、再びリッジのジンファンデルを主役に据えた記事を発表した。『ジンファンデル――カリフォルニアのもうひとつの赤』と題された論説は、前月にロンドンで行なわれた、リットン・スプリングス 50周年の回顧テイスティングに基づいている(リッジによるリットン・スプリングスの初ヴィンテージは、1972)。この赤を長年仕込み続けた最高醸造責任者のジョン・オルニーが、回顧テイスティングを仕切った。ジャンシスは、ジョンによる初ヴィンテージである1997が、「途方もなく壮麗であった」と、最大限の賛辞を寄せている。
今回の記事の冒頭でジャンシスは、「カリフォルニアのジンファンデルは、ワイン界で最も過小評価されている品種だろうか?」という修辞疑問を投げかける。ブドウの1米トンあたりの取引価格(2024)が、カベルネ・ソーヴィニヨン 2162ドル、ピノ・ノワール 1695ドルだったのに対し、ジンファンデルはわずか668ドルだった。仏の二大赤品種に匹敵する品質ポテンシャルを持ちながらも、経済原理に従いジンファンデルの古木が引き抜かれ、人気品種に植え替えられている――そんな現状を、彼女は嘆く。
ジャンシス・ロビンソンは、自身が発起人となって、古木の世界規模公開データベース、「オールド・ヴァイン・レジストリー」を、2023年に立ち上げた(リッジが扱うブドウ畑も、多数登録されている)。当然ながら彼女は、高樹齢のブドウの木に、並々ならぬ関心を寄せる人物である。今回も、リットン・スプリングスやガイザーヴィルに見られる、混植・高樹齢の畑の優越性を説いてくれた。創設当初から、「古木の番人」として努力を重ねてきたリッジにとって、ジャンシスは強い味方だ。