連載コラム Vol.370

2020年ハーヴェスト・レポート

2020年12月01日号

Written by 黒川 信治

幾多の挑戦に満ちた2020年のハーヴェストが終了した。2000年から毎年秋、現地でワイン造りに加わっている大塚食品の醸造家 黒川信治も、渡米を断念した今年。異例のヴィンテージは、どのように推移し、いかなるワインが仕込まれたのだろうか。

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日本のみならず、世界のいたるところが、年間を通して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受けた2020年であったが、カリフォルニアでは、それだけでは治まらず、8月中旬、9月初旬と下旬に大きな山林火災(Wild Fire)に見舞われた。

COVID-19並びに3度の火災に見舞われた2020年のカリフォルニアは、ブドウ栽培家やワイン生産者にとって非常に厳しいヴィンテージとなったが、稀に見る高い品質の果実が収穫された年となったようである。

カリフォルニアにおける2020年のブドウの生育期は、パンデミックによる混沌とした世情とは裏腹に、理想的な芽吹きや開花を伴い穏やかなスタートをきり、8月の猛暑により生育期が早まり、結果として通常より2週間程度、早い収穫となった。この8月の猛暑が引き起こした極度の乾燥状態が、8月17日の落雷による350箇所以上に及んだ火災の要因のひとつであった。この猛暑による乾燥状態は、のちの火災による煙の影響と共に、収穫量を例年の20~30%前後少なくさせた。

RIDGEにおいても2020年は、パンデミックによる厳しい規制の影響もあって、火災が発生する以前から既にチャレンジの多いヴィンテージであったが、度重なる火災によって、更に難しいヴィンテージとなったと言っている。その様な状況下にあって、幸いなことに感染者を1名も出すことなく、無事収穫を終え2020年ヴィンテージの瓶詰めの目途が立った事は何よりも良い知らせである。煙の影響を受けて収穫をあきらめた区画はいくつかあったようだが、収穫できた果実は、収穫量が少なかった事が功を奏して、小粒のベリーと凝縮した酸味にしっかりした色をもつ非常に良好なバランスのとれた高品質なものとなった。

火災の影響で収穫できなかった畑や2020年ヴィンテージの生産をあきらめたワイナリーが少なからずすでに出ているため、手放しで喜べないが、RIDGEを含めたカリフォルニア全般において、収穫が出来たところでは、素晴らしいヴィンテージとなっているようであり、瓶詰めされるワインには大きな期待が出来そうな2020年である。

働く人にとって、これまでにない厳しい年であったからこそ、出来上がったワインへの思い入れも一入で記憶に残るであろう2020年。そのワインが、非常にバランスの取れた果実から造られたものという事で、一日も早く味わってみたい気持ちにかられている。

【追記】 COVID-19の影響で、渡米出来なかった事もあり、2020年のハーヴェスト・レポートは、今回の一度限りとさせていただきます。 そして、日本からCOVID-19と火災の被害にあわれた方々へ心からお見舞いを申し上げると共に、カリフォルニアの全てのワイン関係者へ慰労と感謝の気持ちを込めて、今年のレポートを終わりたいと思います。

2020年11月30日 黒川信治

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