連載コラム Vol.365

ポール・ドレーパーのオンラインセミナー

2020年7月29日号

Written by 立花 峰夫

新型コロナウィルスの世界的流行にともない、ワイン生産者が国内外の市場に赴いてのプロモーションがすべてストップしてしまった。過去4ヶ月、海外から造り手が来てセミナーをすることも、ワインメーカーズ・ディナーを催すことも、ほぼ皆無だったといえる。

代わりに突如として盛んになったのが、ウェビナーという通称で呼ばれるオンラインセミナーだ。造り手が自ら主催するものもあれば、生産者団体や輸入元など流通が主催するものもあり、毎日のように多数のワイン・ウェビナーが開かれる日々がいまも続いている。

海外の造り手自身や生産者団体が主催するものは、アジア市場を特別に対象にしたものでない限り、現地の時間にあわせての開催になるため、日本で生視聴するためには真夜中や早朝に起きている必要がある。ただし、ほとんどのオンラインセミナーは、後日録画がYouTubeなどの動画サイトにアップされるから、ライブ感と質疑応答を諦めるならば、後日自分の好きなときに見ればよい。

カリフォルニアについてもウェビナー花盛りだが、数ある企画の中で目を引くのが、カリフォルニアワイン(California Wine Institute)による連続ウェビナー・シリーズ、「Behind the Wines with Elaine Chukan Brown-ワインの裏側」である。これは、昨今カリフォルニアワインに関してもっともアクティブに優れた情報を発信するジャーナリストのひとり、イレイン・チューカン・ブラウンが、カリフォルニアの名だたる造り手をゲストに招いて対談とテイスティングをする約60分のプログラム。この4月から日本時間の深夜、ほぼ毎週ライブ配信されている。なお、チューカン・ブラウンが同じくホスト役を務め、アジア市場向けに開催時間を調整したスピンオフ・シリーズ、「Inside California Winemaking~カリフォルニアのワイン造り、その内側~」も隔週で開催されていて、こちらは夜更かしや極端な早起きをしなくても生視聴が可能である。

さる5月19日、このシリーズにリッジの会長であるポール・ドレーパーが登場した。話題は多岐にわたり、アメリカンオークになぜこだわるようになったか、あるいは前・工業的なワイン造りについてといった、おなじみのトピックもいろいろあったが、イリノイ州の農場での生い立ちや、若かりし頃にマンハッタンで画家サルヴァドール・ダリと不思議な邂逅をしたエピソードなど、筆者が初めて聞く話もあって、1時間あまりの尺があっという間に経過する楽しいセミナーであった。英語字幕付きの録画が、YouTubeの以下のURLから視聴できるので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=xoo6xvZplbs&t=18s

新型コロナ禍によって、海をまたいでの人の往来が制限される日々は当分続くだろうから、今後はこうしたオンラインセミナーが主流になっていくのではないかと思う。オフラインでのセミナー、つまり実際に人々がリアルな場に集まってのものと違って、もちろんいろいろと制約はある。現場に居合わせ、ワインメーカーと対面するときに感じる興奮が、ディスプレイ越しだとあまり感じられないのが最大のデメリット。それ以外にも、参加者の集中可能時間が比較的短く(自宅でリラックスして視聴することが多いため)、最長でも1時間程度までだとされているのも大きな制約だ。セミナー中に試飲するワインについても、参加者が各自で用意することになるため、ブラインド・テイスティングはできないし、サービス温度やグラス選択についても、主催者側がコントロールすることがかなわない。

一方で、オンラインならではのメリットもある。自宅あるいは職場から視聴できるのは参加者にとって利便性が高いし、参加者の数も会場のキャパに左右されない。主催者側からすれば、会場費というセミナー開催に伴い発生する一番高額な固定費を払う必要もない。造り手はたいていワイナリーからライブ配信をするから、手持ちのカメラで仕込み場や樽貯蔵庫、隣接するブドウ畑の映像を届けてくれることもあり、これはオンラインセミナーならではのプラスアルファだ。そのほか、フランスの醸造家とアメリカの醸造家のジョイントセミナーなんていうものも、オンラインなら簡単にできてしまう。いまに、VR技術を駆使した企画も登場しそうだ。

なお、リッジは早くから、こうしたオンラインでの情報発信に注力してきたワイナリーで、ヴァーチャル・テイスティングと呼んでいるプログラムを、10年ほど前から定期的に開催してきている。現在もけっこうな頻度で開催しているから、興味がある方はワイナリーのウェブサイトの告知を見てほしい。

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