連載コラム Vol.362

リッジが造るピノ・ノワール 初ヴィンテージ2018が入荷!

2020年6月8日号

Written by 立花 峰夫

前回のコラムでお伝えした、リッジが47年ぶりに生産したピノ・ノワール、コラリトスの初ヴィンテージである2018が、2020年5月末に日本に到着した。ほどなく、国内市場での販売が開始になる。

前回のコラムで紹介した、コラリトス地区のガリ・ヴィンヤーズは、同名の夫妻が所有者であり、2013年に初めてブドウ樹を植えた。46エーカーのこの畑は、太平洋に近接しているため、海風と海霧の影響が非常に強い。そのために極めて冷涼で、昼夜の寒暖差がとても大きいのが特徴だ(その寒暖差は摂氏で20℃にもなる)。午後に吹く海風のせいで、ブドウの果皮が厚くなり、それが冷涼な気候、大きな寒暖差とあいまって、複雑で深い風味の果実になるのだと、ガリ夫妻は説明している。土壌は、砂岩質の下層土の上に、頁岩質の壌土が表土として載っているというもの。品種としては、ピノ・ノワール、シャルドネのほかに、テンプラニーリョとシラーも植わっているが、リッジが契約しているのはピノとシャルドネだけである。

ガリ・ヴィンヤーズに植わるピノ・ノワールのクローンは、ディジョン系の115や777、ヘリテージ系のスワン、カレラなど数種類。区画別に植わるこれらのクローンに成る果実を、リッジではすべて別々に収穫し、個別に醸造・熟成させてその風味の違いを見ている。それぞれのクローン別に、はっきりとした香りや味わいの特徴があるのが、グラスを並べて比べると感じられ、実に興味深い。摘み取り糖度はクローンによって変わるが、22~24度の間であり、平均すると23.5度。2018の最終的なアルコール度数は、13.8%と控えめで、凝縮感はしっかりあるものの、華やかさと優雅さが備わったワインに仕上がっている。

醸造は、ピノ・ノワールとしてはなかなかに横紙破りで、初ヴィンテージの2018は完全に除梗し、しっかり破砕もした。1~3トンの小型タンクでアルコール発酵を行っており、ピジャージュはせずルモンタージュだけで抽出する。当然ながら、リッジのワインだから、天然酵母で発酵させ、マロラクティック発酵も天然乳酸菌だ。アルコール発酵が終わったワインは、アメリカンオークの小樽主体で熟成(ただし、全体の16%はフレンチオークのブルゴーニュ樽も使用)、ほとんどがニュートラルな古樽だが、15%のみ新樽を使っている。

このヴィンテージ2018の仕込みが、醸造家としてのキャリアの中で、初めてのピノへの取り組みになったというワインメーカーのエリック・ボーハーは、「カベルネなどボルドー品種や、ジンファンデルで培ってきたリッジの伝統的な赤ワイン造りの技術を、ピノ・ノワールにも適用してみたい。どんなものができるか、見てみたいのだ」と、述べる。その顔には浮かぶのは、自信の笑みである。カベルネやジンファンデルと異なっているのは、樽熟成中に澱引きを一切しない点だ。ヴィンテージ2018は、シュール・リーの状態で15ヵ月間熟成をさせ、瓶詰め直前に一度だけ澱引きを実施、無濾過で2019年12月に瓶詰めした。

以下は、筆者が2020年2月末、モンテベロ・ワイナリーを訪問した際に試飲したボトルのテイスティング・コメントである。

「華やかな赤系果実、赤い花のピュアなアロマに、ミント、アメリカンオーク由来のラクトン、フレンチオーク由来のヴァニラ、ナツメグ、クローヴなどのブラウンスパイスが、複雑な趣を添えている。甘草、ドライハーブのニュアンスもあり、非常に立体感のある香り。口に含むと滑らかなアタックのあと、存在感のあるタンニン、快活な果実味とほどよい凝縮感があり、見事な統一感を備えた仕上がりになっている。余韻も芳しく、力強く長いもので、美しく終わる」

2013年6月以前のコラムはこちらから