連載コラム Vol.358

リッジとアメリカンオーク その3

2020年2月3日号

Written by エリック・ボーハー

●樽の製造
高品質のアメリカンオーク樽は、通常24~36ヵ月間、その木材を天日乾燥させている。乾燥は、四季があり、夏に雨が降って湿気もある森林の中で行う。乾燥を均一にするために、木材は注意深く積み上げられ、空気が通る隙間が空くようにされている。その山は崩されて、てっぺんに積まれていたものが底辺に、底辺に積まれていたものがてっぺんになるよう組み替えられるのだが、これも乾燥を均一にするためだ。この間、菌糸の働きによってアメリカンオーク材中の化合物が分解され、木糖が生成される。十分な期間が過ぎたら、木材は樽製造所へと運ばれ、次は樽造りの工程へと進む。木材を柔らかくして曲げられるようにするため、蒸気を当てるか、または直火で焼いたあと水で湿らせる。そうすると、木材をたわめて樽の形に組むことができるようになり、そのあと金属の輪がはめられる。木材を曲げる方法としては、リッジは常に蒸気を好んできた。熱すると気孔が開き、焦がし(トースティング)の準備が整う。樽が火鉢の上に置かれて内面が焦がされると、アメリカンオーク材にあるタンニンはすべて燃えてしまい、木糖がキャラメル化する。出来上がったばかりの樽から漂ってくる香りは、シナモンと砂糖をふりかけたグラハムクラッカーにそっくりだ。大変に甘くエキゾチックな匂いである。

天日乾燥のフレンチオーク樽においては、樽材を曲げるのは直火によってで、曲げるときに水で湿らせる。焼きの程度によって、つまり直火に当てている時間と温度に応じて、タンニンは減少する。軽めのエレガントな焼きだと木材由来のタンニンが多量に残り、強い焼きだとタンニンは減る。それでもなお、フレンチオークは大変多くのタンニンを含んでいるため、強く焼いたとしても、ワインには余韻に渋味が残ってしまう。フレンチオークはまた、木材の中に甘味をあまり含んでいないため、キャラメルのような香りは出てこない。新しいフレンチオーク樽から香るのは、ほとんどヴァニラだけである。

●タンニン
ブドウにおいては、タンニンは果皮(10%)と種子(90%)にあり、果皮だけにあるのではない。種子由来と果皮由来のタンニンは、発酵中に結合する。この化合物は、ワインの口当りを構成する要素となる。結合していない「遊離」のタンニンは、収斂味と乾いたような感覚の原因である。フレンチオークに含まれるエラジタンニン(木材由来のタンニン)は、発酵のあとから抽出されるもので、それゆえワインに溶け込む機会を持たない。このエラジタンニンは収斂味を増すため、ワインの余韻がよりざらざらした辛いものになる。

フレンチオーク材に含まれるタンニンの量は、アメリカンオークよりもずっと多い。アメリカンオークに含まれるのは、ほとんどがスパイス風味と、炭素を5つもつ複合の木糖類であり、この木糖は樽材を焦がすときにキャラメル化する。乾燥が正しく行われる限りにおいて、タンニンはほぼ含まれていない。この複合の木糖類は、ワインに溶け出し、ワインに含まれるブドウ由来のタンニンをその甘さで覆い隠してくれる。アメリカンオーク樽で熟成させたタンニン分を多く含むカベルネの余韻は、円やかで柔らかくなり、甘い果実が感じられるようになるのだ。

収量が高く、灌漑がなされているカベルネの畑では、タンニンを余り含まないジューシーなブドウがとれるから、フレンチオーク樽に入れることによって、ワインにそれなりの口当りとタンニンの骨格を与えることが必要となる。加えて言うと、ワインの中にあるタンニンの骨格を強めるために、粉末状のフレンチオーク材を、発酵中の破砕果汁に加えている醸造家は少なくない。

●香り成分
フレンチオーク材に含まれる香り成分のほとんどはヴァニリンで、これはワインにヴァニラ風味を与える。フレンチオーク材は多孔性であるため、相当量のヴァニリンがワインの中に抽出される。時として、ワインがのっぺりと重く感じられるようになるほどだ。ワインの中にあるブドウ畑の個性や、品種由来の香りを覆い隠してしまうのである。化粧のしすぎに似ているだろう。一方、アメリカンオーク材については、適切に天日乾燥させられている限りにおいて、ディルやココナッツの強い香りが見られることはない。アメリカンオーク材は密で孔が少ないため、クローヴ、ナツメグ、ブラウンシュガーの香りや風味が穏やかに抽出されるに留まるのである。カベルネのアロマを圧倒したり、覆い隠したりすることがない。むしろ、カベルネのアロマや風味は、アメリカンオーク材によって高められ、強められるのだ。

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