連載コラム Vol.342

エリック・ボーハーによるハーヴェスト・レポート2018 その2

2019年4月26日号

Written by 立花 峰夫

2018年のヴィンテージについては、すでに大塚食品の黒川信治氏によるレポートがリアルタイムでアップされているが、その後モンテベロ・ワイナリー、リットン・スプリングス・ワイナリーの各醸造責任者によるレポートが本国のウェブサイトに発表された。前回と今回は、モンテベロ・ワイナリーの醸造責任者エリック・ボーハーによるハーヴェスト・レポートを訳出する(全2回中の第2回)。

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10月上旬には(カリフォルニアで)嵐があったが、モンテベロには一滴も雨が降らなかった。それでも、気温が下がり、数日間にわたって濃い霧が立ちこめたので、ブドウ樹が一息つき、果実はみずみずしさを取り戻すことができている。それまでは、糖分の成熟のほうが風味の成熟よりも進んでいて、酸味も過剰気味であったので、この天候は糖度を下げてくれるものとして歓迎された。雲が晴れると、穏やかな気候が戻ってきてくれている。風味が成熟しはじめ、収穫は早いペースで進み、10月5日の開始から18日の終了まで、毎日摘み取りがなされた。2012年にもまったく同じことをしたのだが、この年にもソノマの自社畑から追加の人夫を呼び寄せて、一日あたりの収穫量を増やし、成熟スピードに追いつけるようにしている。ワイナリーにある小型タンクはすべて、またたく間にワインで満たされてしまった。アルコール発酵はゆっくりで、モンテベロ用のロットについては平均で9日、カベルネ・エステート用の区画については7日、圧搾までにかかっている。タンニンのバランスを保つため、果帽へワインを降りかける頻度と時間を少なくした。それでも、発酵中の果汁は日に二度、循環と通気がなされている。果汁の循環は、タンクの下部から抜いて、果帽の下に戻す形で行われており、酵母を刺激し、天然の栄養成分を均一化する効果がある。これにはまた、アルコール発酵をゆっくりながらも推し進める効果があり、ほとんどのタンクでは圧搾の前に糖分がなくなった。ただ、いくつかのタンクではフリーラン・ワインに糖分が残っていて、マロラクティック発酵が生起しているタンク内でも酵母が活動を続けた。圧搾のあと、マロラクティック発酵は通常、ワインが辛口になるまで生起しないよう抑止されている。とはいえ時折、マロラクティック発酵が早く始まって、アルコール発酵の最終局面と同時に進むこともある。これはトラブルになる可能性があって、というのも酵母によるアルコール発酵が抑制されるからである。乳酸菌が強いときにこうした現象が起きることが多く、そうした乳酸菌は酵母がブドウ糖を代謝する経路をつぶしてしまうのだ。2018年産カベルネの複数のロットで、これが起きた。幸い、マロラクティック発酵を終えるために樽に移されたあと、酵母は息を吹き返してくれている。理想的とは言えないまでも、アルコール発酵はゆっくりと進んだのだが、ワインの品質と安定性を注意深く観察せねばならなかった。加えて、これで最初のアッセンブリッジ(ブレンド)のタイミングまでに、すべてのロットの発酵が終わっていない事態へとつながる可能性が生じた。その場合、発酵が終わっていないロットは、晩春に行われる二度目のアッセンブリッジで試飲され、ブレンドされることになる。このヴィンテージは素晴らしい品質のワインが生まれたものの、糖度と風味の成熟のバランスに問題のあった区画を中心に、入念で厳しい選別が必要となるだろう。長年、モンテベロの一部となってきたクライン農園の三区画で、この問題が起きている。この年、当該区画のブドウは風味が十分に成熟する前に、干しブドウ化が始まったのだ。これらの果実はワイナリーに届いたとき、糖度が高かったにもかかわらず、青臭い風味があった。ルーステン農園、トーレ農園、ペローネ農園の若木の区画もいくつか、類似の水分ストレスを被り、果実が干からびてしまった。そうした区画からも素晴らしいワインができはしたものの、非常に豊潤で、果実味が前に出たスタイルである。これらのワインは、カベルネ・エステートのアッセンブリッジにおいては、理想的な要素として考えられるだろう。

ともあれ心配はご無用で、モンテベロのアッセンブリッジにおいて、試飲すべき素晴らしいロットはまだたくさんある。メルロとプティ・ヴェルトについては、ともに完璧に成熟し、スムーズに発酵し、信じがたいほど高い品質を備えている。最初のアッセンブリッジで選ばれる量はおそらく少ないだろうが、春までの経過がすべて良ければ、二番目のアッセンブリッジで量が増えるはずだ。とはいえ、ブドウ生育期間に由来する次の三つの要因のため、生産量は少なめになるだろう。第一に、収量が平年より約5%下がったこと。第二に、たいていの年にはプレス・ワインの一部のフラクションを利用するのだが、この年のプレス・ワインは恐ろしくタンニンが強く、フリーラン・ワインのロットに加えることができなかったこと。第三に、風味が過熟で干しブドウが連想されるワインはすべて、自動的に格下げされたことである。煎じ詰めれば、我々は数十年にわたって、この特別な石灰岩土壌を持つ山の畑から、真に複雑なワインを造り続けてきた。最高のモンテベロは、フィネス、バランス、フレッシュさ、ぞくぞくするような風味を持ち、瓶内での長い寿命を保証する強靱なタンニンの骨格を備えてなければならないと信じている。これは、アルコール度数にして12.5から13.5%の範囲に収まるところで摘まれたブドウでしか、手に入れることができない属性なのだ。アッセンブリッジにおける我々の目標は、そうした特別なロットを選び出し、うまくブレンドすることで卓越したワインを生み出すことである。
-2018年12月 エリック・ボーハー(COO兼モンテベロ・ワイナリー醸造責任者)
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