連載コラム Vol.341

エリック・ボーハーによるハーヴェスト・レポート2018 その1

2019年4月15日号

Written by 立花 峰夫

2018年のヴィンテージについては、すでに大塚食品の黒川信治氏によるレポートがリアルタイムでアップされているが、その後モンテベロ・ワイナリー、リットン・スプリングス・ワイナリーの各醸造責任者によるレポートが本国のウェブサイトに発表された。今回と次回は、モンテベロ・ワイナリーの醸造責任者エリック・ボーハーによるハーヴェスト・レポートを訳出する(全2回中の第1回)。

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この生育期間の特徴は、気温と降雨が異例なほど不安定で、予測できない幅があったことである。1月と2月は通常、冬の間で最も気温が低く雨が多い月になるのだが、2018年はその限りではなかった。両月とも温かく、雨が降らなかったのだ。冬が救われたのは、亜熱帯の降雨を北のカリフォルニアへと運んでくれた、ジェット気流の劇的な変化によってである。この「大気の川」が、3月の間に一連の激しい嵐をもたらし、たくさんの雨を降らせてくれたのだ。小規模な嵐がいくつか4月と5月にもあり、根の上部が広がる土を濡らしてくれている。春のほとんどの期間、気温は平年を下回っており、そのためにブドウ樹の生育はゆっくりになった。

幸い、開花が遅くなったことで、穏やかな天候のもと花は咲いてくれた。ジンファンデルについては結実がうまくいったものの、モンテベロの山においては、品種や区画ごとの標高によって差が生じている。成熟を十分なものにするために、摘房が行われたことで、ブドウ樹はバランスを取り戻し、より均一な成熟が得られるようになった。この山の畑の険しい地形にあっては、場所によって水資源の量に大きな差があり、水分は石灰岩の地層を走る編み目状の亀裂の中に蓄えられている。谷の部分や標高の低いテラス部分には、地下水が集まってくるため、ブドウ樹の樹勢が強くなってしまい、果実が成熟するまでにより時間がかかる。ブドウ畑を歩けば、こうした差異を地図にすることができるので、当該のエリアについてサンプリングを別個に行って成熟度を味で確認し、適切なタイミングで収穫することが可能となる。シャルドネについては、樹勢は成熟のペースを管理する上で実に望ましいもので、糖分の蓄積がゆっくり進みつつ、酸が高い水準で保たれている。おかげでフィネスがあり、よりエレガントなスタイルのシャルドネが生まれるのだ。ボルドー品種については、もっと樹勢が抑えられているほうが、小粒で凝縮感のある果実を生み、より品質が高くなる。冬に雨が降らなかったため、8月末にはブドウ樹は水不足の症状を見せるようになっていた。この水不足と、秋分が近づいて日が短くなったことで、黒ブドウに色付きが生じている。収穫期間中の温かく穏やかな天候のおかげで、ブドウは徐々に熟してくれ、摘み取りは理想的なペースで進んだ。シャルドネの摘み取りがなされたのは、9月8日から26日の間である。いつもと同じように、区画別にブドウを全房圧搾した。そうした得られた果汁は、樽に移され、冷たい地下セラーで天然酵母によるアルコール発酵へと進む。低収量のために、強い風味に満ちたシャルドネの果汁が得られている。このヴィンテージは夜温が低かったおかげで、シャルドネの酸度は通常よりも高くなった。これらのロットはちょうど今、アルコール発酵を終えようとしているところだ。澱の攪拌は始まったところで、自己溶解する酵母がワインに複雑味を与え、口あたりを良くする効果が得られる。攪拌の頻度は味わいによって決められており、樽ごとに判断しているのに近い。攪拌が過度になると、繊細な天然乳酸菌は、マロラクティック発酵を止めてしまう。攪拌が少なすぎると、強い還元臭と風味が形成されてしまう。バランスを注意深く考慮しなければならないのだ。マロラクティック発酵が終わったら、入念なブレンドのプロセスを、来る夏のどこかの時点から開始することができる。

ジンファンデルの収穫は円滑に進んだ。2017年は収量が少なかったが、この年は平年並みに戻ってくれている。穏やかな夏の天候のもと、果実はゆっくりと均一に熟してくれた。ジンファンデルでそうした状況になるのは珍しいのだが、そうなった年は特別なヴィンテージと考えられる。9月いっぱいを使って摘み取りを行っており、始まったのはパソ・ロブレスのドゥージー農園から、そのあと北のマゾーニ、カーマイケルの畑、そしてより冷涼な場所へと続いていき、最後がガイザーヴィルの混植の区画であった。9月末に近づいてくると、天気予報は、雨の可能性について警告を発し始めた。この予報に接して、我々のジンファンデルの収穫は急速に終息へと向かい、ジムソメア農園で完璧に熟した果実を9月30日に摘んだことで完了した。卓越した2018年産ジンファンデルは素晴らしい色、風味の深さ、ブドウ畑の個性、そしてしっかりしたタンニンの骨格を備えている。 (次回に続く)
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