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連載コラム Vol.99
洞爺湖サミットの首脳夕食会でモンテベロ1997が!
  Written by 立花 峰夫  
 
 アッセンブリッジに関する連載コラムの途中だが、今回は別の話題を。2008年7月7日から9日かけて行なわれた北海道洞爺湖サミットの首脳夕食会において、モンテベロの1997がキメのワインとして提供されたという。2006年6月、小泉元首相をブッシュ大統領が歓待したホワイトハウスでの晩餐会の席で、リットン・スプリングス2004が出されたのもまだ記憶に新しい。またしても、外交の場にリッジのワインが登場である。

 福田首相夫妻が主催した首脳夕食会は、ザ・ウィンザーホテル洞爺の和食レストランで開かれた。テーマは「北海道、大地と海の恵み」。利尻島のバフンウニ、オホーツク産毛ガニ、網走産キンキといった北海道の魚介類を使った料理が出たあと、乳飲み仔羊のローストがメイン料理として登場した。この夕食会の「主役料理」に寄り添ったのが、モンテベロ1997であったのだ。モンテベロ以外では、シャンパーニュ(ラ・スル・グロワ/ル・レイヴ)、ルイ・ラトゥールのコルトン・シャルルマーニュ2005、トカイ(ハンガリーの産地)の甘口が提供されたほか、静岡県・磯自慢酒造の「磯自慢 純米大吟醸中取り」もふるまわれている。

 美食外交、食卓外交という言葉がある。各国首脳が集まって食べる食事のメニューともなると、美味しいものを集めただけでは当然なく、一品一品に政治的な意味があるのだ。ナポレオン戦争時代のフランスの外交家、タレーラン=ペリゴールは、シャトー・オー・ブリオンと伝説の料理人アントナン・カレームを駆使した豪華な夕食会によって、ウィーン会議における交渉を有利に進めることができた。今回、モンテベロ1997は、いかなる「役割」を担うことを日本政府から期待されていたのか。

 日本企業が保持している世界的ワイナリーの誇示、という意図がまずあるだろう。日本酒「磯自慢」は言わずもがなだが、シャンパーニュについても「日本人プロデュース」が話題になった銘柄である。飲み物メニューの全体が、日本の国力のアピールになっている。加えて、晩餐会のクライマックスで提供される赤ワインを、カリフォルニアのワイナリーにしたのはブッシュ大統領への目配せか。また、洞爺湖サミットが環境問題にフォーカスしていたことを考えると、環境に配慮した自然な企業活動というメッセージが、リッジのワインに込められていたと見ることもできる。

 ただし、いかに外交的に都合のよい属性があろうと、味がいまひとつなら大役をまかされることはない。美食に飽いたはずの首脳陣を、感嘆させることができる文句無しの美味--これがあったからこそ、モンテベロが選ばれたのは間違いない。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。