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連載コラム Vol.98
モンテベロ 2007 アッセンブリッジ その4
  Written by 立花 峰夫  
 
 さて、アッセンブリッジは具体的にどのような手順で進むのか。

 ファースト・アッセンブリッジは、その年に仕込まれたすべてのロットを順番にテイスティングすることから始まる。2007年のモンテベロの場合、1月末のファースト・アッセンブリッジの時点で48の発酵ロットがあり、その中で安定していた状態になっていた36について吟味がなされた。

 会場は、モンテベロ・ワイナリーか、リットン・スプリングス・ワイナリーのテイスティング・ルーム。例年、35〜40程度のロットを5〜6のフライト(一度にブラインド・テイスティングするワインのセット)に分割し、フライト単位で結論を出していく。それぞれの参加者の前には、黄色いノートパッドとワイングラスが置かれ、サンプルワインが注がれるや否や、皆が詳細なコメントをノートに記入しはじめる。各フライト内ではすべてのワインが同時に注がれ、ひとつのフライトに複数の品種が含められていることも多い。参加者それぞれが、一フライトで出される6〜8種のワインの中から、「好ましいもの(+)」と「好ましくないもの(−)」を同数選びだす(ワインの数が奇数の場合は、加えて「どちらでもない=ニュートラル」をひとつ選ぶ)。エリック・バウアーが全員のスコアを集計し、その後一人一人が自分の試飲コメントを順に発表していく。

 「ミネラル風味が豊か」、「肉感的」、「古典的なモンテベロの特徴がある」、「樽が強すぎるのが気にいらない。余韻も辛い」、「わずかに青臭い」……。このようにワインの描写がなされ、引き続いて熱心な議論が行なわれる。全員の意見が一致するようなサンプルもあるが、意見が割れることも多い(参加者の中でただ一人だけが、他の全員と意見を異にすることもある。もちろん、ポール・ドレーパーがそうした立場になることもある)。特定サンプルが持つ特定の性質に、2人以上の参加者が着目し、しかし正反対に評価するといったこともまったく珍しくない。議論が終わるとブラインドが外され、サンプルごとの量と分析数値(pH、アルコール、タンニン、色素と結合したタンニン)が報告される。

 評価の基準は、「単独で飲んで優れている」が、他と組み合わせたときにもうまく噛み合うようなワインを選ぶというものである。モンテベロの典型的特徴(ねっとりとしたグラマラスさ、ミネラル風味、しっかりしたタンニン、強い酸など)を備えているかも重要なポイントだ。何かの要素が突出しているサンプル(タンニンや酸が強すぎるなど)は、ひとまずは選外となるが、段階が進んだあとでブレンド候補として再度検討される。

 このテイスティング、実際に参加すると激しく疲労する。どのサンプルも同じ畑のものであるから相当に似通っており、ブドウ品種が違っていても共通の個性がある。極端な集中が必要とされるのだ。強い酸と強靭なタンニンによって口が麻痺し、アルコールは脳を麻痺させる。 

 なお、このような厳しいテイスティングであっても、驚いたことにポール・ドレーパーは試飲中に決してワインを吐き出さない。ワインを分析する際には、少なくとも一度は飲み込まなければならないと、彼は固く信じているのだそうだ。タフな人である。 

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。