Archives
連載コラム Vol.93
岐路にあるカリフォルニアワイン
  Written by 立花 峰夫  
 
 今回もワイナリー売却に関する話である。

 3Rという言葉があるのはご存知だろうか。カリフォルニアで優れたジンファンデルを造る三つの名門ワイナリー、すなわちリッジ Ridge、レイヴェンスウッド Ravenswood、ローゼンブルム Rosenblumの頭文字が、すべてRだったことから生まれた言葉である。今年のはじめに、そのうちのひとつであるローゼンブルムが飲料コングロマリットのディアジオ・グループに1億500万ドルで売却されている。これで、3Rのオーナーシップはすべて、創業オーナー/醸造家から人手に渡ってしまった。

 ローゼンブルムは、1978年に獣医のケント・ローゼンブルムが創業したワイナリーで、現在の本拠地はサンフランシスコ郊外のアラメダにある。高い熟度のブドウを使った濃厚なスタイルが持ち味で、リッジと同じように単一畑のワインも多い。売却劇はやや唐突だったが、ケント・ローゼンブルムは現在もCEO兼醸造統括責任者の地位に留まっており、今のところ表面的な変化は見られない。

 一方、レイヴェンスウッドは、1976年に創業されたソノマのワイナリー。創業オーナー兼醸造責任者は、元化学者のジョエル・ピーターソンである。ヨーロッパ産ワインの信奉者であるピーターソンは、フレンチオークで熟成させたヨーロッピアン・スタイルの力強い単一畑産ジンファンデルを世に送り出し、国内外に多くの熱狂的なファンを得た。売却されたのは2001年のことで、のちにロバート・モンダヴィをも買収した世界最大のワイナリー・グループ、コンステレーションが買い手である(売却額は1億4800万ドル)。こちらのケースでも、ジョエル・ピーターソンは「顔」として今もワイナリーに留まり続けている。

 ヨーロッパには、代々家族でワイン造りを続ける名門ワイナリーが数多い。しかしアメリカの場合、この「世襲」がうまくいかないケースが多いようだ。現在、売却劇の主役となっているワイナリーのほとんどが、創業オーナーによって1960?1970年代に誕生した比較的新しいワイナリーである。「世襲」を成功させるには、それなりの長い期間に渡って準備が必要なのだが、新しいワイナリーの場合、そうした準備が円滑に進む企業風土がワイナリー内になかなか出来上がらないのだという。2004年に売却されたロバート・モンダヴィの場合も、ロバート翁から二人の息子への世代交代がうまくいかなかったことが、売却の最大の要因であった。

 今後も当分は、カリフォルニアのワイン業界で大型売却が続くだろうと見られている。

 
Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。