ナパ・ヴァレーの超有名ワイナリー、スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ(SLWC)が、昨年7月に売却された。SLWCは、いわゆる「パリ対決」およびそのリターンマッチにおいて、リッジやフランスの銘醸と競い合ったワイナリーである。1976年に行なわれたオリジナルのパリ対決において、SLWCのカベルネ・ソーヴィニヨン1973が、ムートンやオー・ブリオンを抑えて一位に輝いたことはあまりにも有名な出来事。初ヴィンテージ、わずか五ドルの無名ワインが成し遂げたこの快挙により、「ワインのグローバリゼーション」時代の幕が開いたといっても過言ではない。その後もSLWCは優れたワインを造り続け、「無名のポッと出」はいつしか名門と呼ばれるようになった。
その名門が、とうとう創業オーナーの手を離れた。初代醸造家でもあるウォーレン・ウィニアルスキー翁(79歳)は、跡継ぎ問題で長年苦悩した末に、シャトー・サン・ミシェル(ワシントン州)とアンティノリ(イタリア)に、40年手塩にかけて育てたワイナリーを売った(サン・ミシェルとアンティノリは、ワシントンでジョイントベンチャーを行なっている)。売却額は、1億8500万ドルと報じられている。
さて、SLWCはこれから変わっていくのだろうか。新しいマネージャーを迎えて半年、まだ大きな変化は見えない。サン・ミシェルもアンティノリも、高品質ワインで輝かしい実績のあるワイナリーだから、品質が落ちることはないように思う。買いブドウで造られるワインの生産量は増えるようだが、フラッグシップであるCASK23と、単一畑ワインのFAY、SLVについては量が増えることはないという。ウォーレン翁も、売却から三年間はアドバイザーとして、新しいチームを指導する契約になっている。
いずれにせよ、売却が吉とでるか凶とでるかはこれからである。リッジのように創業オーナーから大塚グループへと売却されたあとも、その同一性を保ち、品質を向上させ続けた例もある。長年にわたってリッジの好敵手であったSLWCが、新しいオーナーのもとでさらなる発展を遂げることを期待したい。
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