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連載コラム Vol.90
ATPプログラムについて
  Written by 立花 峰夫  
 
 アメリカのワイナリーも、国内の個人客に対して直接ワインを販売することに力を入れている。ワイナリー内にテイスティング・ルームを設け、訪問客に購入を勧める以外に、メンバーシップのプログラムを設けているところも多い。メンバーシップ・プログラムとは、参加者に年間一定数のワイン購入を義務づけるかわりに、価格の値引きや稀少品の提供を行なうというものだ。

 リッジにも全部で3つのメンバーシップ・プログラムがあるが、最も興味深いのは、1978年以来続いているATPと呼ばれるものだろう。これはAdvance Tasting Programの略で、リッジが毎年少量生産している単一畑のワインの数々を、メンバーに限定して販売するというものである。

 リッジが毎年ブドウを購入している畑の中には、面積の小さいものが少なくない。そうした畑のブドウも、やはり単一畑のワインとして仕込まれるのだが、量にして5〜55樽ほど(約1,300〜15,000本)にしかならないため、酒販チャネルにのせての国内販売や、海外への輸出には適さない。そこで、リッジのワインを毎年安定的に購入してくれる個人客に、そうした稀少ワインを販売するプログラムを設けているのだ。

 メンバーには、年間8種ないしは9種のワインが送られ、1種あたりの購入本数については2、4、6、12本の中から選ぶことができる。南仏系品種やジンファンデルのワインなどが毎年含まれていて、リットン・スプリングスの自社畑産シラー、ダイナマイト・ヒルのプティ・シラー、ナーヴォ、ドゥージー、マゾーニのジンファンデル、ブキニャニのカリニャンなど、明確なテロワールの個性を表現する優れた銘柄も多い。こうしたワインたち、リットン・スプリングスや、ガイザーヴィル、モンテベロといった最高の畑のワイン群には、完成度でこそ叶わないかもしれぬが、多様な畑の個性を毎月のように味わえるという点では、実に魅力的なプログラムだと思われる。

 ATPのワインは、プログラムに加入して通信販売で購入するほかは、ワイナリーのテイスティング・ルームで買うしか入手方法はない。日本で手に入れることは不可能だが、リッジのワイナリーを訪れる機会があれば、是非購入してみてほしい。

※アメリカでは州毎に酒の販売に関する法律が異なっており、一部の州の個人客に対しては、カリフォルニアのワイナリーから直接通信販売でワインを届けることが禁じられている。現在、リッジがATPプログラムでワインを届けているのは、約30州である。

 
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。