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連載コラム Vol.89
リッジのシャルドネ その3 スタイルとその変遷
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジのシャルドネが、高級ブルゴーニュ産シャルドネの標準的フローと同じ醸造プロセスで造られていることは、前回述べた(ただし、天然酵母や天然の乳酸菌で発酵させるところ、アメリカンオークを多用するところなどは、リッジのユニークな点である)。ただし、現在のプロセスに行き着くまでには、様々な試行錯誤が繰り返されてきている。現在の流れは、1994から1996ヴィンテージにかけて、広範な比較醸造試験を行ない、ベストと思われる手法を組み合わせたものなのだという。それ以前は、全房圧搾ではなく、圧搾の前に破砕・徐梗を行なっていたり、スキン・コンタクトを行っていたりしたらしい。このあたりは、カリフォルニア全体におけるシャルドネ醸造の進展・進歩と、リッジもある程度軌を一にしている。

 なお、初期におけるリッジのシャルドネを語る上で、忘れてはならない人物が一人いる。カリフォルニアで最も評価の高いシャルドネを造るスペシャリスト、スティーヴ・キスラーである。広く知られている話ではないが、UCデイヴィスの栽培・醸造学部を卒業したキスラーが、最初に働いたワイナリーがリッジであった(キスラーは、ポール・ドレーパーが初めて雇ったアシスタント・ワインメーカー)。キスラーは、リッジで働いていた期間にもシャルドネの醸造を担当し、スキン・コンタクトなど、当時の新技術を積極的に取り入れようとしていたという。リッジで3年間働いたキスラーは、1978年に独立して自身のワイナリーを興し、スターダムへとのしあがっていった。今日でも、時折キスラーとポール・ドレーパーは、シャルドネのワイン造りについて意見交換をするのだという。

 さて、リッジのシャルドネには、どのヴィンテージにも共通した特長がある。モンテベロの畑の冷涼な気候に由来するしっかりした酸と、豊富なミネラルのニュアンス、そしてアメリカンオークに由来するエキゾチックな風味である。酸やミネラルの豊富さは、リッジのシャルドネをブルゴーニュ産のそれに近いものとしているが、果実味やアルコールの豊かさについては、カリフォルニア・スタイルにむしろ近いと言えるだろう。リッジのシャルドネのアルコール度数は、毎年14パーセント代である。ただし、ポール・ドレーパーが、「最高のブルゴーニュ産シャルドネには、14パーセント以上のアルコールがある」と常々述べているのは興味深い。ドレーパーによれば、アルコール度数が14パーセント台に達するまで摘み取りを待つのは、ブルゴーニュ地方におけるシャルドネの達人、故ヴァンサン・ルフレーヴのアドバイスなのだという。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。