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連載コラム Vol.88
リッジのシャルドネ その2 ワイン造りの流れ
  Written by 立花 峰夫  
 
 モンテベロの畑に育つシャルドネは毎年、ボルドー系の赤ワイン用品種に先駆けて収穫される。決して広くはない畑は、成熟スピードに応じて複数の区画に分けられており、区画別に摘まれていく。年によって異なるが、多い時には10回を超える摘み取りがなされることもある。

 摘み取られ、ワイナリーに運ばれたブドウは、すぐに房のまま水平式メンブラン・プレス機に投入され、ゆっくりと果汁が搾られる。徐々にプレスの圧力を高めながら果汁を得るのだが、その最高圧は1.5バール(約1.5気圧)と低い。プレスのあと、果汁をいったんステンレスタンクに移し、半日ほど静置して固形物を沈殿させる(デブルバージュ)。そのあと、少量の亜硫酸が加えられたあとで果汁は樽に移され、アルコール発酵が始まる。樽は200?230リットルの小樽で、アメリカンオークとフレンチオークを併用、アメリカンオークの比率がやや高い。新樽比率は、ワインの種類(モンテベロ、サンタ・クルーズ・マウンテンズ)やヴィンテージによって異なるが、3割前後のことが多い。

 アルコール発酵は、赤ワインと同じく天然酵母によるものである。樽入れ後、2?3日で発酵が始まるが、シャルドネの樽が置かれているバレルルームは温度が低いため(12?15度)、非常にゆっくりとしか進まない。完全に辛口になるまでには2?3か月かかる。発酵プロセスが長期間に渡ることは、ワインの複雑性アップに寄与していると考えられている。

 シャルドネのワイン造りは、赤ワインに比べると静かなものである。樽に果汁が入ったあとは、ゆっくりと進む発酵を見守るのみ。毎日、果汁/ワインの温度と糖度、異常の発生を知らせるオフ・フレーバーが出ていないかがチェックされ、順調に発酵が進んでいるかが確認されている。

 アルコール発酵が終わると、やはり野生の乳酸菌によってマロラクティック発酵が生起する。マロラクティック発酵は平均5か月続き、その期間中は週に一度バトナージュ(樽の底の澱を撹拌する作業)を行なう。ワインは合計11?15か月間樽の中で過ごし、清澄・濾過を経ず瓶詰めされる。

 リッジにおけるシャルドネの醸造フローは、現在世界中の高級シャルドネ生産者が採用している標準的なものだと言える。ただし、天然酵母、天然乳酸菌で発酵させる点、アメリカンオークをメインで使う点が、リッジならではである。次回のコラムでは、リッジのシャルドネのスタイルについて解説する。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。