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連載コラム Vol.85
醸造家の言葉 その3 ジョン・オルニー
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジでワインを造る醸造家のインタヴュー・シリーズの最終回は、リットン・スプリングス・ワイナリーの醸造現場を統括する副社長、ジョン・オルニーである。

Q:ワインを造るときに、一番頼りにしているものは何?

A:
一緒に働いている仲間たちに、とにかく頼っています。特に、長く厳しい破砕の期間中は、品質にことのほか注意を払ってくれるセラー・クルーたちが頼りです。長い一日が終わろうとしているときには、細部をないがしろにしがちなものです。一トンのブドウから、ほんの一握りのピンク色をした未熟な房を選り分けるようなことは、ちょっとしたことなのですが、しかしそれでワインが偉大になるか駄目になるかが決まるのです。一本のワインの品質を決めるのは、何かひとつの要素ではありません。ワイン造りの道のりにある、小さな仕事の積み重ねなのです。そうした積み重ねは、仕事をこなす人の不断の努力なくしてはありえません。


Q:リッジの樽はほかのワイナリーとどう違う?

A:
三十年前、リッジは天日乾燥のアメリカンオークの先駆者となりました。それが、高品質ワインを生む樽熟成にとって欠かせない要素なのです。リッジのワインの背景には、常に産地の個性を反映したものを造りたいという考えがありますから、フレンチオーク特有のニュアンスを加えることで、ヨーロッパのワインを真似しようとしたことはないんです。ただ、これは私たちのワインがもつ際立った特徴の、ほんの一要素に過ぎませんが。


Q:カリフォルニアのほかのワイナリーのワイン造りとリッジでは、どこが違うと考える?

A:
リッジは、長年にわたって自然でワインに手を加えない(ただし細かい注意は払う)ワイン造りを行なってきました。こうした伝統的なアプローチは、カリフォルニアではかなり珍しいものです。私たちが造るすべてのワインは、ブドウの上で自然に発生する酵母によって発酵していることを考えてください。私たちのワインはすべて、三か月ごとにワインを樽から出して戻すという、信頼できる方法の澱引きがなされていることも。瓶詰めの日にしても、テイスティングによって決められています。こうしたアプローチでは、人為的にワインを加工することを避けねばなりません。一方でリッジは、高級ワインを造るワイナリーの中で、最もレベルの高い最新式のラボを備えています。ただ、ラボで得られるデータは、ワインの成長を見守り、理解するために使われているもので、データのみに頼って重要な決定をすることはありません。


Q:たくさんのブドウがワイナリーに届いたとき、チェックしながら何を考えている?

A:
ブドウの品質を見極める最初のチャンスは、ブドウがホッパーと呼ばれる受け皿に移されたときにやってきます。この時は、何かを考えているというより、じっと見て次のようなことを感じとろうとしていますね。ブドウの粒はどんなふうに見える? 色付きはいいか? 熟度は均一か? 粒は大きいか小さいか? 果汁がたっぷりか、干涸びて萎んだ房がちらほら見えるか? 粒が疎らについている房と、粒がびっしりついている房とどちらが多いか? カビに冒された房はないか? 種や茎はどんな色か? 干しブドウになったり、日焼けしたりしている房が、何パーセントぐらいあるか? そして一番大事なこととして、どんな味がするか?

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。