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連載コラム Vol.80
醸造家の言葉 その1 ポール・ドレーパー
  Written by 立花 峰夫  
 
 今回から3回に分けて、リッジのワイン造りを統括する3人の醸造家のミニ・インタヴューを掲載する。初回は総帥のポール・ドレーパーである。

Q:一番思い出深いヴィンテージを、理由とともに教えてほしい。

A:
おそらくは、1969年のモンテベロだろう。自分がリッジで造ったはじめてのワインだから。とても難しい年で、汗と冒険が必要だった。私とデイヴ・ベニオン(リッジの初代醸造家)の両方にとって驚きだったのは、その難しい年のワインがとても高品質で複雑なものに仕上がったことだ。1969年は今でも、最も優れたモンテベロの古酒のひとつに数えられる。


Q:優れたワインを造るのに、人間の介入はどこまで必要か?

A:
「人間の介入」を厳密に定量化することは難しい。人間の意志というものは、ワイン造りの初期から入り始める。単に美味しい飲み物以上のもので、製造コストと利益をカバーできる販売価格のワインを造ろうと欲したときから、人という要素が介在しはじめるからだ。しかしながら、価格や評論家の点数で、優れたワインかどうかが決まるわけではない。優れたワインは、「本物」らしさがなければいけない。それは、原産地に忠実なことで、ブドウ栽培、収穫、醸造プロセスにおける人為的介入を、極小にするよう心がけることなのだ。それぞれのヴィンテージ、それぞれのワインは異なっている。よって、いつ介入すべきか、いつ介入すべきではないかというテーマをめぐっては、個別に異なる問題と解決策がある。


Q:伝統的なワイン造りとはいかなるものか?

A:
製品を「造る」というより、むしろ自然なプロセスを「導く」ものである。第一に、際立った個性と高い品質のワインを安定的に生む、特定の土地を探し出すこと。ブドウが適切に管理され、収量が適度に抑えられていることが必要である。第二に、天然の酵母がブドウの糖分をワインに変え、天然の乳酸菌が二次発酵に際してリンゴ酸を乳酸に変えられるようにしてやること。第三に、効果が見込める必要最小限の亜硫酸以外は化学物質を用いず、瓶詰め前の注意深い濾過以外は加工的処理を行なわないことである。


Q:ワイン造りの中で、もっともやりがいを感じるのはどこか?

A:
特定の土地に由来する個性や品質を扱う点だろう。それぞれの土地が、美しく安定的に己を表現する様子を眺めながら、生のブドウから優れたワインへの生成変化をいかに導けばよいかを学んでいくのだ。個々の区画のワインを、醸造・栽培スタッフとともにテイスティングし、どう組み合わせれば最高のワインが生まれるかを決める。こうしたことすべてが自分には悦びなのだ。


Q:地球温暖化によってどういう影響があると思うか?

A:
気候が変化し、気温が上昇していることは間違いない。気温上昇は徐々に進行しており、過去15年間でおそらく、ワインのアルコール度数を0.3パーセントほど高くしているだろう。(現実のアルコール度数上昇はもっと激しいが、それは生産者がわざとそうしているからだ)。現在、最高と目されている産地のワイン・スタイルは、長い年月のうちに変化していくだろう。一方で、より冷涼な地域でもブドウ栽培が可能になっていくだろう。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。