Archives
連載コラム Vol.70

ガイザーヴィル 1966-2006
土地の個性を表現した偉大なワインと単一畑の40年を祝う その3

  Written by ポール・ドレーパー  
 
  1891年にウィットン農園に植えられた最も樹齢の高い樹は、今も大いなる深みとエキゾチックな果実味をガイザーヴィルに与えてくれている。この古木の植わる区画は、シンプルに「古い区画」と呼ばれているが、畑の状態はシンプルとはいえないだろう。この区画は複数のブドウ品種の混植で、約25%がジンファンデル(こちらもまたハーツ・デザイヤーのセレクションである)、25%がカリニャン、25%がプティ・シラー、残りについてはマタロとアリカンテがだいたい半々である。混植の区画はどこでもそうなのだが、ブドウの成熟度を測るのがとても難しい。開花の遅い品種はジンファンデルよりも成熟が遅い。よって、「古い区画」に植わるすべての品種でリッチな風味を手に入れようと思うと、熟度が非常に高くなるまで待たねばならない。「古い区画」のブドウが、ガイザーヴィルの背骨となっているのは間違いない。

  ウィットン農園には、樹齢120年になる3エーカーのカリニャンが今も残されている。そのすぐ南にはハーツ・デザイヤーの「三角」区画があり、樹齢100年のカリニャンが2エーカー植わっている。この二つの区画からは、ガイザーヴィルにブレンドされるカリニャンの大半が収穫される。これらの古木の区画から得られるカリニャンは、凝縮したブラックチェリー風味と瑞々しい酸味を持っているのが常で、ミントと濡れた小石のニュアンスが趣を添えている。

  植え替えを行なった際には、0.5エーカーのマタロ(ムールヴェドル)と3.5エーカーのプティ・シラーを加えた。このふたつの品種は、「古い区画」や2エーカーの「線路跡」区画など、別の区画でも成功を収めている(ガイザーヴィルの畑で育つプティ・シラーが、リットン・スプリングスの畑で育つ同じ品種とは違ったワインになることは興味深いだろう。ガイザーヴィルのものはリットンよりもエレガントで、プラムや胡椒の風味がある。リットン・スプリングスのワインにはエキゾチックなボイズンベリー風味があり、大柄でしっかりとしたストラクチャーがある)。このほかに、ハーツ・デザイヤー農園のブドウもいくらかガイザーヴィルには使われている。「線路跡」区画に植わる樹齢100年のジンファンデルなどで、「古い区画」のブドウと同じくワインに複雑味を加えてくれている。

  これらすべての区画は、そのすぐ南にあるいくつかの区画とともに、9月上旬から10月上旬にかけて収穫される。平均しておよそ20の発酵ロットとなり、のちのアッセンブリッジ(ブレンド)でブラインド・テイスティングされるのだ。マロラクティック発酵が順調に始まると、アッセンブリッジも開始される。そのあとブレンドされたガイザーヴィルは、天日乾燥のアメリカン・オーク樽に移される。アッセンブリッジで選ばれなかった残りのロットもやはり樽に移されるが、こちらはロット毎にわかれたままである。翌年の1月、樽の底にたまった澱を最初に取り除く作業の前に、選ばれなかったロットは再度試飲される。いくつかのロットは4月に行なわれる次の澱引きまで別に取り置かれ、ガイザーヴィルに混ぜて品質が向上する場合にのみ、あらたに加えられるのだ。そうでないロットについては、多数の畑のジンファンデルを混ぜて造るスリー・ヴァレーズというワインに含められることになる。ガイザーヴィルのアッセンブリッジは、4月までに完了するのが普通である。樽熟成期間は13カ月程度が平均で、瓶詰めまでに6度の澱引きが行なわれる。

  ガイザーヴィルの個性は、しばしば古木のカリニャンのブレンド比率が高いことに由来すると言われる。しかしながら、(ブレンド比率よりも)畑そのもののほうが、ワインの個性が形作られる上ではるかに重要な要素である。輪郭のくっきりした果実味に加え、際立ったミネラル風味が石の多い粘土土壌によってもたらされるのだ。夜間の温度が低いことで、どの品種も酸がしっかりしたものになる。通常は酸の低いプティ・シラーですらその例外ではないのだ。生育期間が長いために、高すぎない糖度で風味成分が完熟し、ワインにはバランスとエレガンスがもたらされる。

  優れたワインを定義する際に欠かせない要素を、ガイザーヴィルは見事に体現している。すなわち、安定して高い品質を持ち、ブドウの植わる土地によってその個性が定められるということである。

 
Archives
 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズCEO、最高醸造責任者