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連載コラム Vol.67

環境保全型ワイナリー

  Written by 立花 峰夫  
 
  この冬、テレビのCMでカリフォルニアのワイナリー、クライン・セラーズの太陽光発電が紹介されていた。リッジ第二の拠点である、ソノマのリットン・スプリングス・ワイナリーにも同じシステムがある。カリフォルニアのワイン生産者の中では、近年環境保護に対する意識が急激に高まっており、2003年に完成したリットン・スプリングス・ワイナリーでも最先端の工夫が取り入れられている。

  屋根に敷き詰められた太陽光発電パネルは、ワイナリー操業のために必要な電力の大きな部分をまかなってくれている。システムが稼働した2003年から2006年末までのあいだに、リットン・スプリングスで太陽光発電によって生み出された電力は約28万キロワット時。この電力を環境保全の観点で換算すると、大気中に放出される二酸化炭素が88トン分少なくなった、あるいは100ヘクタール分の森林資源が守られたのと同じことなのだという。

  リットン・スプリングスの環境保護対策は、太陽光発電に留まらない。建物の壁にはすべて、稲藁を固めてつくったブロックが使われており、上に塗られたしっくいも畑の土を用いたもの。稲藁のブロックには、断熱性が非常に高いというメリットがある。断熱性が高ければ、セラーの温度を一定に保つために、エアコン(電力)に頼る度合いが小さくなるのだ。稲藁を積み上げた壁の最上部と最下部には通風口が設けられており、外気温と内気温の差を感知すると自動で開閉するようになっている。下部の通風口から夜の冷たい空気が入ってくると同時に、上部の通風口からはワイナリー内部にたまった温かい空気が排出されるといった具合に、自然な温度調整がなされるのである。

  稲藁のブロックは、リサイクル資材としても優れた性格を持っている。稲の藁には大量のケイ土が含まれるため、昆虫や微生物によって分解されにくいという性質をもつ。よって、他の植物の藁のように、堆肥にしたり土に鋤き込んだりするのに向かないのである。しかし、この分解しにくいという性質は、建築資材としては耐久性が高いことを意味する。また、稲作農家にしても、焼却処分するしかない稲藁が売れるのだから、全員が得をする話になっているのだ。

  このような各種の工夫により、リットン・スプリングス・ワイナリーは素晴らしく省エネルギーな施設になっており、環境と調和したワイン造りを行なっている。ソノマを訪れる機会があれば、是非一度足を運んでみてほしい。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。